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先輩から教えてもらった部屋の前で立ち止まり、僕は深呼吸をした。
連絡は取り合っていたが、先輩が卒業してから会うのは初めて……二年ぶりの再会に、胸が高鳴る。
忘れようと思っても忘れられなくて、ずっとずっと好きだった相手と会えるのだから、緊張するなと言う方が無理な話だろう。
僕はドアの横に付いているインターホンを押した。
『ピンポーンッ』
部屋の中からインターホンの音が聞こえる。
暫く待つと、ドアが開いた。
「……入れ」
身なりを気にしていないのか、ボサボサの黒髪によれた服。黒縁の眼鏡の下にある目は細く、まるで睨まれているようだ。
高校の時よりも背が伸びているが食事をちゃんと摂っているのか心配になるほど細身に見えて、まさに長身痩躯という言葉がピッタリな外見。
そんな、少しだらしなくて怖い見た目だけど……高校の時と印象は変わっていない。
僕が好きになった、先輩だ。
「お、邪魔……します」
声が掠れて、上手く喋れない。
先輩に言われるがまま中に入ると、部屋は思っていたよりも綺麗に片付いていた。
僕の前を歩く先輩に、思わず声を掛けてしまう。
「あ、あの……先輩!」
「何」
少し猫背気味の先輩が、僕の呼び掛けに立ち止まってくれた。
振り返った先輩の表情は、不機嫌そうに見える。
「えっと、その……お久し振り、です」
(駄目だ!相変わらず怖い!)
先輩は僕より断然身長が高くて、オマケにいつも不機嫌そうな顔をしているせいで、少し怖い印象がある。
怖いからなのか、好きだからなのか……僕は先輩の顔を直視できなかった。
思わず俯いてしまった僕の頭に、少しひんやりとした何かが乗っかる。
「あぁ……相変わらず小さいな、お前」
それが、先輩の手だと気付く。
少し乱暴なくらい僕の頭をグシャグシャと撫でる先輩に、ドキドキしないわけがない。
高校の時から、こういったスキンシップを先輩は僕に取ってきた。
僕より断然背が高くて、少し怖いけどカッコいい……そんな先輩が、僕は大好きなんだ。
「先輩、手……冷たいですね」
「そうだな」
ひとしきり僕の頭を撫でた後、先輩が自室と思われる場所に僕を招いた。
そこにあるのは作業机が一つと、ベッドだけ。
「ここが俺の作業部屋。隣がアシスタントの作業部屋」
「分かりました」
僕は早速隣の部屋に行こうと歩き出す。
すると、先輩が僕を呼び止めた。
「オイ、どこに行こうとしてる?」
「え? 隣がアシスタントの部屋なんですよね?」
「お前はこっちだ」
先輩はそう言って、何故かベッドを指さしている。
全く理解が出来ない。
「僕、アシスタント……ですよね?」
「お前、絵とか描けないだろ」
「えっと、はい。でも、これから頑張って覚えます!」
「心意気は立派だ。だが、お前はこっち」
先輩は、尚もベッドを指さし続けている。
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