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Mの恋 クリスマスSSにしおりをはさみました!
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Mの恋 クリスマスSS
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12/24 PM22:12
『…あ、もしもし??我妻さん??』
『お~…。ってか呼び方…。まあ、いっか。お前、まだ仕事中だしな。』
『え??ああ、本当だ。タイムカードまだ押していないから。つい、癖で。』
『ははっ。何だよ、癖って…。』
『それよりさ、今夜なんだけど…。』
『あ~…。俺、今、お前ン家着いたわ。』
『うっわ。本当??…俺、まだ仕事かかりそう。』
『うん。…聞いたよ。新しいプロジェクト、任されたんだって??』
『そう‼そうなんだよ~…。ああ、でも。それで、遅くなっちゃっていて…。』
『いいよ、いいよ。適当に家に置いてある酒でも舐めながら、お前を待つよ。』
『本当、ごめ~ん…。その辺の酒なら何本でも開けていいからさ。寛いどいて。』
『何本って…。俺、そんな酒豪じゃないんだけど。』
『酔って寝ちゃわない程度に飲んどいてね‼いや、本当に申し訳ない…。』
『いいって…。お前が頑張っている証なんだから。』
携帯を切って、我妻は家の卓上に放る。リビング以外の電灯はついておらず、室内は真っ暗手前だ。スーツの上から上着を羽織った我妻は周囲を見渡して、思わず噴き出した。
「…俺、焦り過ぎ。」
こらえ性ねぇな、と我妻は微苦笑を浮かべながら、キャラメルブラウンのコートを脱ぎ、そばにあった椅子の背に上着をかけた。
長袖のYシャツに巻き付いたネクタイの結び目を緩め、布地の先端を胸ポケットに差し込む。続けて、Yシャツの袖についたボタンを一つずつパチンパチンとテンポよく外していく。
慣れた手つきで暖房をつけて、テレビの電源を入れる。…バラエティの音声を聞き流しながら、脱衣所へと足を運ぶ。手洗いうがいを終えてから、キッチンへと更に移動。冷蔵庫前に屈みこみ、中身を吟味する。
迷った挙句、ビール缶といかさきに落ち着いた。年下の恋人は何度もこのチョイスをマンネリと評すが、我妻にしてみれば王道に頼ればまず間違いはないと踏んでいる。リビングへの帰り道、キッチン前の卓上に置きっぱなしだった携帯を手に、ソファーへと向かう。
テレビの前、ソファーに身を預け、だらりとした悪い姿勢のまま、プルタブを勢いよく引き上げる。カシュッと短い、いい音が響く。我妻の頬が自然と緩んでいった。
ぐびぐびと飲んで、パーティー開けしたいかさきを指でつまんだ分、口に放り込む。ビールで流し込む。
照明がつき続けているのはまだ、リビングだけだ。
「…ははっ…ふはっ…何それ…。」
細かく肩を揺らして、薄っすらと微笑みを唇に刻みながら、我妻は定期的にちらっと傍らに置いた携帯へと視線を注ぐ。
「…はよ帰れ。」
祈るような気持ちで呟いて、我妻は気怠い身体に喝を入れるかの如く、その場に座りなおした…。
12/25 AM00:52
落合は敗北感しか満喫していなかった。
目の前には、テレビをつけっぱなしにして無防備にソファーに埋もれている年上の恋人がいた。くぁ~、と時折口を半開きにしつつ、すやすや寝入っている。あどけない寝顔に、胸が鷲掴みにされている錯覚を起こすほど、愛らしい姿だ。
(ほんっと、この人かわい過ぎ…。)
テレビとソファーの間にある背の低いテーブルにいかさきの空袋とビール缶が二つ…内一つは空なのか、卓上で横たわっている。現場から察するに、我妻は疲れとアルコールに押されて健やかに寝入ってしまったらしい。
(…恋人がパーフェクトかわいくて、行儀良くて、素晴らしいことこの上ないんだけど。)
…ところが、である。
落合の敗北感は、別に原因があった。
落合は、寝こけている年上の恋人の前ではぁ、と溜息をつき、かっくんと俯いてみせた。
(…恋人の俺がクリスマス忘れていたってどういうことだよ、バカァァァッ‼)
恋人の日、の代表格ともいえるクリスマスイブを落合はすっかり記憶から抜け落ちていた。
…てっとりばやくいうなれば、“クリスマスの存在や近くなっていることには気づいていたが、頼まれたプロジェクトに日を追われ過ぎて気づいたら年上の恋人から『クリスマス、お前ン家行っていい??』と誘いが来て初めて自覚した”と説明すべきか。ちなみに、我妻が連絡してきたのは十二月二十三日。イブの前日である。我妻氏、どうやらクリスマスを心待ちにしていたものの、年下の恋人から誘いがないので痺れを切らして自分から主張しだした…らしい。
要するに…今回、落合は死ぬほど格好悪い。
身に着けていたマフラーやらコートを引っぺがしつつ、落合はずぅぅぅんと項垂れていく。
(我妻さんが寝ていてよかったかも…。だって、土壇場過ぎて俺、クリスマスプレゼント、何も持ってきてないし。)
恋人失格。攻失格。漢失格。…不名誉な称号が三つも増えた落合だった。
(…とはいえ、寝落ちしているこの人を放っておくわけにはいかないよな。)
落合はそろりと恋人の肩を掴み、緩く上下に揺する。
「…我妻さん、起きて。こんなところで寝たら、風邪引いちゃうよ。ね、我妻さぁ~ん??」
我妻の瞼がぴくぴくと小さく震えだし、うっすらと開き出す。
「…ん。めりーくれすまふ、だな。」
(寝起きで呂律回っていない…っ。この人、俺の心を何回射止めりゃ気が済むんだよ…。)
落合は小さく微笑んで、恋人の額に唇を押し当てる。触れるだけど、短いキス。
「メリークリスマス、我妻さん。…だけど、ごめんね。俺、忙しくって全然恋人の務めできてないや…。休みとってデート出来なかったし、ケーキやクリスマスプレゼントも用意し忘れちゃった…。」
「…。」
浅く俯く落合に、年上の恋人は何を思ったか。落合の首に腕を絡めると、そのまま強引にソファーへと押し倒す。
「…とりゃ。」
「うっわぁ‼?」
形勢逆転。我妻に組み敷かれた年下の恋人は、目を白黒させている。我妻は彼の腹筋に跨って、寝ぼけ眼を擦りながら顔を近づけて寄っていく。
「…なぁ~にが恋人の務めだよ。クリスマスデートだぁ、ケーキにクリスマスプレゼントだぁ??…んなの、俺がいついるって言ったよ‼?」
「え、ちょ…っ。何、怒っているの??」
あたふたする落合の胸に、自らの頭をころんと転がして、年上の恋人は唇を尖らせる。
「…俺は、お前とクリスマスの夜を過ごせりゃ、何でもいいんだよ。」
「…そ…っか。」
半ば茫然としている年下の恋人に、我妻は意地っぽくそうだよ、とぶっきらぼうに返す。
「俺が一番欲しいプレゼントは、お前だよ。気づけ、バカ。」
罵りながら、我妻はしっとりと濡れた上目遣いに、年下の恋人を誘惑してくる。
「…んで、名前。」
「え??…ああ。」
落合はふっと笑って、年上の恋人の顔を分厚い手で包み、額を重ねてその名を囁く。
「大好きだよ、 。」
二人が戯れる部屋の窓、カーテンの隙間から雪が降り出したのが見える。
雪は降り続け、募っていくだろう。
二人の、互いを思い合う心のように…。
本当に欲しいもの、一つだけ
(おしまい)
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