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彷徨うもの 55にしおりをはさみました!
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彷徨うもの 55
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宴の刻限が近づき、起こしに来た侍女が見たものは……橡のアビスに抱きしめられて眠る己の主の姿。
……若夫婦の昼寝の様は本当に微笑ましくて、主の装いを台無しにしたことは不問に付すとする。
軍団長殿は一応は気を遣って衣を汚さないように気を遣ってくれたようなので。
「すまない……もう時間か? 」
他者の気配に気づいたアビスが即座に覚醒する。
一度、アキラの身体を自分から外し、勢いよく起き上がると愛しい妻を抱き上げた。
「叔父上は? 」
「まだお見えになっておられません 」
セテフ殿は己の特権も今回は甥にお任せになるようだ。
全裸のまま、アビスがアキラを抱いて湯殿へと向かう。
……入浴中は眠っていても構わない。
奥深くまで、すべてを暴くのは自分なのだから……
大広間では獣人たちの酒宴が始まろうとしていた。
鬣犬たちはあまりに豪華な馳走の数々に圧倒されて言葉もない。
中でも3m級のピラルクは見るものの度肝を抜いた。
他にもナイルパーチやティラピアが並ぶ食卓、基本魚を食べない鬣犬はどうすればいいのかわからない。
戸惑っていたナイアーの背中に、何か柔らかくて、軽いものが飛びついた。
「何、何? お魚はじめて見ましたかぁ? 」
肩越しに振り返ってみると白く小さい顔に金色の髪。
蒼い瞳に薔薇色の頬をした天女が……
ナイアーの首根に腕を回して貼り付いている。
あまりの衝撃に動きが止まってしまった。
「ねぇ、ねぇ、鬣犬さんたちはヒトガタにならないの? 」
一瞬、場の空気が緊張したが、その場をナイアーが上手く納める。
「鬣犬獣族はこれ以上人化をしないのですよ 」
「そうなの? 僕も獣人さんのもふもふの手触りは大好き! ね? 触っていい? 」
「こら!! アキラ! 」
背後から気配も感じさせず近づいてきたアビスが、ナイアーに抱きついたままのアキラを剥ぎ取る。
「アキラ! 不躾な奴!
申し訳ない。こいつは普段からこんなで……
利かん坊で困っているのですよ 」
苦笑いに近いものを浮かべているアビスだが……目が笑っていない。
「構いませんよ、アキラ殿…… 」
「本当にすまない。
アキラ、こちらへ…… 」
筆頭夫君セベクまでがやって来て謝罪する。
そして。
「アキラ、ナイアー殿は以前おまえを助けて下さった方だ。
西の砂漠での砂嵐……憶えているだろう? 」
「あっ! あのときの…… 」
アビスの腕を払いのけてナイアーの元にいくと、向かい合って座り込んだ。
短い毛の生えた大きな手を、両手で握りしめる。
真摯な蒼い瞳が一心に見つめているのは鬣犬の黒い目。
「あのときは、本当にありがとうございました。
あなたのおかげでこうして無事で居られます。
本当に、本当にありがとう!! 」
「アキラ、こちらは鬣犬獣族のリーダー、【ナイアー・ラトテップ】殿。
ナイアー殿……
こちらが、黄金の女神、堕ちてきた天女、我らの伴侶、アキラだ 」
あちらこちらからの夫たちの視線が突き刺さる。
呑気なのはアキラだけ……だ。
「申し訳ない。少しよろしいですか? 」
先ほどから機会を窺っていたのだろう、僅かな会話の段落をぬって声をかけてきた者がいた。
ナイアーよりも年嵩に見える、鬣犬のリーダー。
ナイアーは茶灰色に黒ブチの被毛だがこの男は全身が黒鳶色で手足だけが黒い。
そして何よりも目を惹くのは、全体的に長めの被毛が特に頭部から鬣の部分、首から背中にかけて……が長い。
「話の腰を折ってしまい、本当に申し訳ない。
実は……
天女殿が珍しいものを集めていらっしゃる……と聞き及んで、土産を持参致しました。
後ほど献上させて頂きたく、なにとぞ、なにとぞお納め下さいますよう…… 」
長毛の鬣犬はその場で頭を下げた。
アキラは、一応セベクを見上げる。
「宴の途中、折を見て渡せばよい……
あのナマケモノはそれを運んで来たのか……まさかあれが贈り物、とか言うまいな? 」
「いえ……でも、もしお望みなら……」
目をキラキラと輝かせて、またセベクを見つめるアキラ。
「駄目だぞ……アキラ。
鬣犬殿、ご好意だけ受け取っておく。
アキラには予定の品だけ贈ってやって欲しい……では、失礼する 」
「………… 」
二人だけではなく、23人の鬣犬全員が嫋やかな天女の後姿を見つめていた。
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