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翌日。
昼休みになり、俺は前日の約束通り野球部の部室を訪れた。
「何しに来た」
相変わらず昼休みになると速攻いなくなる有坂は既に部室にいて、仏頂面で俺を出迎える。
「昼飯一緒に食おうって言っただろ。お邪魔しまーす」
「おい待て。部外者が勝手に入るな」
有坂の声を無視して、野球部の部室に勝手に足を踏み入れる。
別に少しくらい一緒に飯食ったっていいだろ。
野球部の部室とか汚いのかと思えば、中は予想外に整理されていてそこそこの広さと各所にロッカー、それから端に机があった。
棚には綺麗に並んだファイルや過去のものであろう賞状などが飾られている。
「野球部の部室のわりには汚くないな。バットとかボールとかないし」
「用具は別の置き場がある。それに個人的に物を適当に扱うのは嫌いなんだ」
「へー」
なるほど、有坂は几帳面と。
友人の情報を早くもゲットしつつ、とりあえず机を発見したしそこで飯を食うことにする。
有坂は相変わらずのしかめっ面だったが、俺がちゃっちゃと弁当を取り出したのを見ると自分も対面した椅子に座った。
二人で向き合って座ると、ぶわっとむず痒い感覚が込み上げてくる。
うわ、やばい。
友達とフツーに飯を食えるとか小学校の給食以来かもしれない。
いや、小学校も高学年辺りではなんかもう周りとは違う、みたいな感じになってた。
地味に感動しつつ、ふと有坂が鞄から取り出したコンビニ袋に気づく。
思わずハッと目を輝かせた。
「もしかして有坂買い弁?いいな」
「…は?弁当のほうがいいだろ」
分かってないな、コイツ。
毎日母親に弁当を必ず持たされる身としては、正直買い弁ってものに憧れる。
いらないって言っても必ず用意してくるから、持っていかないわけにもいかない。
別に不味いわけじゃないが、一度食堂だとか購買だとかで俺も飯を食ってみたい。
そんなわけで今日もやたら手の込んでる母親の弁当を食いながら、全く知識はないが有坂に野球の話でも振ってみる。
有坂は俺に聞かれたことを簡潔に答えるだけで、別段話が広がるでも逆に質問が返ってくるでもなく淡々とした返事だった。
それでも俺は男友達が出来たことが嬉しくて、夢中で会話をしていた。
クラスでも男同士でギャーギャーバカ話してる姿が、ずっと羨ましくて仕方なかった。
「それでさ、俺野球のこと分かんねーから昨日兄貴に聞いてみて――」
「そろそろ走り込みに行ってくる」
話の途中で、さくっと飯を食い終えたらしい有坂が立ち上がる。
食い終わるの早すぎだろ。
しかも食った後すぐ運動とか逆に身体に悪いぞ。
とはいえ昨日も大会が近いって言ってたし、最初からそういう約束で一緒に飯食ったわけだからしょうがない。
さっさとジャージに着替え始めている有坂の背を見ながら、仕方なく食いかけの弁当箱をしまう。
さすがに一人でここで食い続けてるわけにもいかないし。
「分かった。じゃあまた明日一緒に飯食おう」
何気なくそう言ったら、バサリとシャツを脱いだ有坂が顔をこっちに向ける。
さすが野球部だけあって、しっかりと引き締まった身体は同じ男としても惚れ惚れする。
「もう来るな。野球部と関係のない奴を部室に立ち入れるわけにはいかない」
「別に今は誰もいないしいーじゃん。何も放課後まで来ようとか思ってねーし」
「ダメだ」
ぴしゃりとそう言われて驚く。
ここまでハッキリと人に断られたのは初めてだ。
え、ひょっとして俺迷惑?
俺が拒否られる事とかあるのか?
思わず唖然としてしまったが、ジャージに着替えた有坂が部室を出ようとしたので慌てて席を立つ。
俺のことなんて気にせずそのまま出ていこうとしたから、咄嗟にジャージの裾を掴んだ。
「…ま、待てよ。そんなにダメか?ちょっと飯一緒に食うだけだろ」
「話を聞いていたのか。ダメだと言っている」
「じゃ、じゃあ部室じゃなかったらいいのか…?」
いや何俺は縋ってるんだ。
おかしいだろ。
とは思うが、俺はコイツとどうしても仲良くなりたい。
コイツなら絶対に互いに遠慮なしで話せる、ちゃんとした友達になってくれるはずだ。
背を向けていた有坂が振り向いて、俺を見下ろす。
戸惑うこともなく向けられた視線が、髪と同色の真っ黒な瞳が、じっと俺の目を見つめる。
「…結城益男、だったか」
「待て。フルネームで呼ぶのはやめろ」
「なぜだ」
「名前がくっそ気に入らねーんだよ」
そう言ったら有坂は理解できないという顔をした。
この名前を聞いてダサいと思わない奴がいるとは驚きだ。
性格全然違うなと思っていたが、どうやら俺と有坂は感性まで違うらしい。
「お前野球部に入りたいのか」
「いや、全く」
汗くさい青春スポーツとか俺には似合わねーんだよ。
あっさりそう返事をすると有坂は押し黙る。
少しの間の後、再び口を開いた。
「ならお前は俺が好きなのか?」
「――は?」
唐突な言葉にまたしても面食らう。
好きかどうか聞かれたってまだ会ったばかりで、俺はこいつの事を何も知らない。
むしろそれを知るためにこれから友達になろうと思ってるんだが。
「わ、分かんねーけどお前しかいないと思ったんだよ。だから…」
言いながら妙に気恥ずかしくなってくる。
というかなんで友達一人作るのにこんな苦労しなきゃいけねーんだ。
みんなこんなに苦労して友達作ってんのか。
こんな風に誰かに縋ったのなんて初めてで、言ってから変に顔が熱くなってくる。
それでも有坂の服を掴む手が離せないのは、やっぱり友達が欲しいからで。
じっと俺を見下ろす視線にどこか気まずさを感じて目を逸らすと、小さくため息が落ちてきた。
「…分かった。ジャージを離してくれないか。俺は基本部活が優先だがそれでいいか」
「えっ」
ぱあっと俺の心の中に花が咲いた。
部活優先とかなんの問題もない。
一緒に昼飯食って、クラスでちょっと話したりするくらいだって俺はぼっち生活から開放されるなら大満足だ。
「ぜ、全然いいっ。よろしくな、有坂」
「ああ。男と付き合った経験はないが、友達からということで頼む」
「…ん?」
ちょっと待て。
なんか会話の流れおかしくないか?
聞き返したが、有坂はなんでもないようにジャージを正すと再び俺を見下ろした。
「もういいだろう。満足したか」
「お、おー。頑張れよ…」
そう返すとあっさりと部室から出ていってしまった。
有坂が去っていく背中を見送りながら、今しがたの会話を思い出す。
ちょっと待て、どう考えても今の会話の流れおかしいよな。
絶対変な方向に誤解されたよな。
俺の悩みその3。
ようやく出来た友達にホモだと勘違いされた。
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