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26にしおりをはさみました!
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テキパキと部屋を片付けていく有坂の様子をベッドの上で見守る。
いや俺も手伝おうとしたが、余計に散らかるらしくポイとベッドの上に追いやられた。
「親は何も言わないのか」
「親より兄貴によく部屋片付けろって言われるけどさー、自分はどこに何があるかちゃんと分かってるし」
「そういう問題じゃないだろう。漫画においても立派な本棚があるのになぜ使わない」
「だって床にあったほうがすぐ読めるだろ?」
当然のように答えたら、有坂に目を細められた。
せっかく遊びたかったのにまず片付けから入るとか予想外だ。
そういえば前に部室の話をした時に、有坂は几帳面だって話を聞いたっけ。
見る見るうちに片付いていく自分の部屋と有坂の手際の良さに感心していたら、家政婦さんが部屋まで晩飯を持ってきてくれた。
礼を言って受け取ったが、ちらりと俺の部屋を見て至極驚いた顔をされる。
有坂が片付けてくれたからだと思うが、どんだけいつも汚部屋だと思われてんだ。
「有坂、飯にしようぜ」
声を掛けて夕飯を食うことにする。
気づけば俺の部屋じゃないレベルに片付いてて、むしろ逆に落ち着かない。
「結城は頭も良いし体育も実習も卒なくこなしているだろう。なぜ部屋は片せないんだ」
「んなこと言われてもなー。俺は汚いと思ってないし」
むしろ手の届く所に全てある方が利便性あるだろ。
ハッシュドビーフをパクパク口に入れながらそう返したら、有坂に呆れた顔をされた。
「…まあいい。人には得意不得意がある。結城の苦手分野が掃除くらいならむしろ凄いことだ」
「おお、そーだろ?」
「だが少しは改善しろ」
ニシシと笑って返したら、コツンと額を小突かれた。
まるで俺の父親発言だが、有坂に言われるなら小煩い説教も悪くない。
むしろ今一緒の時間を過ごせている事が嬉しくて、何を言われたって楽しいとすら思える。
「…ああ、そうだ。大会も終わったから少し野球部の方も落ち着く。すぐに夏休みになってしまうが、結城の空いている日があれば教えてくれないか」
「――マジで」
そう思っていたらさっそく有坂の誘いだ。
俺の予定なんて365日24時間年中無休のコンビニばりに有坂のためなら空いている。
「いつでもいい。つーか夏休みはどうするんだ?俺毎年長期休みはずっと海外行ってるんだけど今年は行くのやめよーかな」
「なぜだ」
「え?だって向こう行ったら有坂に会えないだろ。一ヶ月も会えないとか絶対つまんねーもん」
当たり前のように言ったら、有坂がどこか困ったように俺から視線を逸らした。
なんか気まずそうに首を擦っているが、一体何だ。
「すまない。夏休みなんだが、俺は結城と会えない」
「――え?」
突然の言葉に衝撃を受ける。
思わず持っていたスプーンをカラリと落とすレベルには衝撃的だ。
天国から地獄へ一気に突き落とされたような気分に陥りながら固まっていたら、慌てたように有坂が口を開いた。
「俺の実家は老舗の旅館なんだ。夏休み中は旅行客が多く手伝いに帰らないと人手が足りない。帰れるのは早くても8月の下旬になってしまう」
「…旅館?有坂の家が?」
「そうだ。すまない。先に言っておくべきだったな」
なんでこうコイツはいつも忙しいんだ。
せっかく夏大終わって少しは暇になって、むしろ夏休み中は海行ったりプール行ったりなんでもいいからともかく遊びまくれると思ったのに。
夏休みの課題だって全部一緒にやりたかったのに。
思い通りにならない歯がゆさにグッと胸が詰まっていく。
昔からいつでも俺の言葉は優先的に扱われて、なんでも思い通りになってきた。
親も兄貴もそりゃ部屋が汚いって言う時もあるが、大体俺のことは甘やかしてくれた。
なのに有坂に関しては、全く俺の意見が通らない。
なんでこの俺がこんなに我慢ばっかり強いられないといけないんだ。
どう考えてもこんなの理不尽だ。
「絶対嫌だ。一ヶ月も会えないとか俺無理」
「すまない。残りの休みは結城のために使うから――」
「絶対に嫌だ」
有坂の目を見てハッキリとそう言う。
どうせ帰ってきたってまた部活だの同好会だのに引っ張られて結局時間が取れないに決まってる。
もう有坂が暇になるのを待ってばかりいるのは嫌だ。
そう思えば俺は頭の中にストンと落ちてきた考えに勝手に決意する。
この瞬間、俺の夏休みが決定した。
「俺も行く」
「…は?」
「俺も有坂の旅館手伝う。人手が足りねーなら俺も行っていいよな」
「それは勿論手伝ってくれるなら有り難いが、かなりの激務になるぞ」
「全然いい。有坂に会えないほうが嫌だ」
旅館の仕事なんてしたことはないが、教えられたことは器用にこなせる自信がある。
それに接客業ならイケメンがいて損はねーだろ。
「いや待て。結城が来てくれるのは俺も嬉しい。だが結城の夏休みを預かるとなると、一度御両親に挨拶をさせてくれないか」
「は?別にいーよ。適当に友達と旅行行ってくるって言うから」
「そういうわけにはいかない」
真剣な顔で言われて面食らう。
どんだけコイツは律儀なんだ。
とはいえ一ヶ月近く留守にするなら、まあ確かに親も心配するか。
ならここは素直に頷いておくことにする。
思い切って決めたことだが、決まってみればワクワクしてくる。
有坂の実家に行って一緒にお手伝いとか絶対楽しい。
しかもこれなら夏休み中もずっと一緒にいられる。
え、これって長期お泊まり会みたいなもんだよな。
もしや枕投げとか出来る?
なんて心を弾ませていたら、ふわりと有坂の手が伸びてきた。
俺の髪を優しく梳き、ゆるゆると頬を撫でられる。
愛されキャラということで触るのを許可したはいいが、最近スキンシップマジで多いな。
「結城の熱意が素直に嬉しい。手伝いとはいえバイト代はちゃんと出るし、観光地だから多少なりとも空いた時間には地元の案内も出来るだろう」
「――マジで?」
「ああ。結城のために出来る限りの事をさせてくれ」
そう言った有坂は俺に比べればミジンコレベルにほんの僅かだが、どことなくはしゃいでいるようにも見えた。
いや、無表情だからやっぱ勘違いかも。
いやいや、勘違いじゃないはずだ。
自分の中で勝手にそういうことにして、頬に触れる有坂の手に自分の手を重ねる。
それからお互いに見つめ合って、微笑み合う。
これからくる夏休みのことを思えば、ワクワクドキドキして楽しみで仕方なかった。
有坂に出会い、友人と過ごす初めての夏休みがやってくる。
――だがこの夏、俺と有坂の関係は大きく変化していくことになる。
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