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結局有坂から連絡がないまま、仕方なくゲー研に足を向ける。
有坂がいないと俺は何をしたらいいのかも、どこへ行ったらいいのかも分からない。
全部有坂ありきだから、文化祭だって何も楽しめないしつまらない。
もう絶望しかない。
「あっ、待ってました。ラインハルト様っ」
それでもゲー研に行ったら水瀬が人懐っこい笑顔を浮かべて俺を迎えてくれた。
さっきはいなかったけど自分のクラスの仕事が終わったらしい。
ゲー研もさりげなく盛況らしく、予想外にひっきりなしに人が来ている。
「ちょうど今会長が来てるんですよ」
「えっ、マジで」
そう言われて見てみれば、新人と白熱したバトルゲームをやっていた。
ちょうど一年前の文化祭で、有坂にここに連れて来られたのを思い出す。
あの時は会長にベタ褒めされたけど、でも何だこいつくらいにしか思ってなかった。
まさか今年は俺がその会長になってるとか。
大学生になったからと言って会長は陰キャ卒業してるわけでもなく、高校の時と一ミリも変わってなかった。
新人とのゲームに決着がつくと、俺の姿に気付いて安定のちょっと早口な感じで話しかけてくる。
「結城君っ、久しぶりだね。今年のゲー研がどうなってるのか見に来たけど、まさか結城君が会長になってるなんて思わなかったよ」
「まあ俺くらいしかやれる奴いないしな。実力的に言ってもこの俺が相応しいだろ」
「ふふ、確かに君の実力は僕も一目置いているけど――ところで話題の新作ゲームはやったかな?まあ受験生だからさすがに買えてないと思うけど、僕は前日から並んでやっと手に入れて――」
「ああ、それなら父さんの知り合いの会社だから、限定版を発売日前に手に入れたぞ」
「…っく、さすがは結城君」
さっそく会長にゲームマウントを取りながら、フフンと上から目線で言ってやる。
一般人とは格が違うんだよ。
「まあでも、今日は物凄い催し物をやってるみたいだからね。さっきまで新人君が勝っていたけど、今は僕が連勝中なんだ」
「え、何の話?」
「嫌だなあ。ゲーム大会の話だよ。優勝すると結城君との時間を貰える特典があるんでしょ?」
「――えっ」
おいおい、マジでそんな企画通したのかよ。
それは元々有坂と水瀬が勝手に始めたリベンジ対決の話だろ。
後夜祭より話が飛躍してないか。
「僕が勝ったら結城君には新作ゲームをみっちりやってもらうからね。ちょうど相方を探していたんだ」
意気揚々と言われたけど、俺の身体目当てじゃなくゲームの腕前目当てってところが会長らしい。
そんなわけでいつの間にか俺が景品にされていて、それを知った奴らがことごとく会長に挑みに来ている。
実習棟の奥でひっそり開催されてる企画のはずなのに、どこから聞いたのか徐々に人も増えていく。
知らない奴との時間を過ごすくらいなら、会長と過ごした方が断然マシだ。
絶対に負けないでくれと会長を応援しながら、ソワソワした時間を過ごす。
とはいえ連戦が続くと、会長の集中力も切れてくる。
徐々にミスも多くなって、ついには追い詰められてしまう。
「――っあ、しまった」
とうとう不穏な言葉と共に、会長の画面にLOSEの文字が浮かんだ。
反対にめちゃくちゃ喜んでる、全く見たこともないやつ。
愕然としていたら、勝利の喜びのまま勝った奴が俺の前までくる。
ガシリと手を掴まれた。
「…っと、隣のクラスの田中です!ずっとファンでしたっ。しゃ、写真じゃなくて本物と一緒に過ごせるなんて…ゆ、夢見たいですっ」
鼻息荒く言われたが、マジで誰だよ。
そして俺はこんな全く知らない奴に最後の文化祭の時間をとられるのか。
こんな奴俺が戦ったら一瞬で勝てるのに、今更『俺に勝った奴』なんていうルールに変更をするのはさすがに自己中だ。
ハルヤンに自己中を直すって言ったばっかだから、いつもみたいに文句言うわけにもいかない。
こんな時に限って有坂はいないし、まだ朝宮さんと遊んでるのか全く連絡もこない。
他に挑戦者もいるけど、さりげなく田中が強くて誰も勝てない。
マジで何者だよ田中。
まさかのモブと文化祭を過ごすという俺史上最悪の展開に襲われそうになったが、不意にスッと目の前に水瀬が躍り出た。
「…仕方ないですね。ゼタスとの戦いまで力を温存しておくつもりでしたが、さすがに村人Aにラインハルト様は相応しくない」
「み、水瀬…っ」
「ご安心ください、ラインハルト様。僕が必ず貴方の騎士になってみせます」
そう言って君主に忠誠を誓うかのごとく、水瀬は胸に手を当てて微笑んで見せる。
お前は騎士じゃなく賢者だろ、っていうツッコミはとりあえず置いといて、力強くコクリと頷く。
今の頼みの綱は水瀬しかいない。
「よし、頼んだぞ。水瀬」
「はい、お任せを。会長の仇も必ず取って見せます」
田中でさえ村人Aの称号を貰えてるのに、相変わらず会長は会長らしい。
そんなわけで気付けばギャラリーもわいわいと盛り上がる大盛況の中、賢者vs村人Aのバトルがスタートする。
白熱した空気の中、だけど俺はどこか熱くなれずにチクリと軋む胸を抑えた。
込み上げる痛みに、きゅっと唇を噛みしめる。
――マジで何やってるんだよ、有坂。
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