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第1話 運命にしおりをはさみました!
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第1話 運命
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――運命というのは時に残酷だ。
手元の用紙に書かれた『Ω』の文字を見て、僕は生まれて初めて絶望という感覚を味わい、自分の運命を呪った。
近年、ニュースなどで度々取り上げられている『第二の性』。
男女の性別の他に第二次性徴が発達する思春期に、この『第二の性』が発現されると言われている。もちろん個人差があって、早くても小学校高学年から高校生まで。
そんな第二の性は大きく3種類の性別に分けられる。
生まれ持った圧倒的な美貌と存在感、優れた知能で人々の頂点に立つと言われているα。優秀な遺伝子を残すことが出来るため社会的地位も高く、人口の約2割に当たるとか。そんなαの多くが有名企業の跡取りであるとも言われている。
次に人口の大半、約7割を占めるのがβ。身体的にも学力も平均並み。勿論頭の良いβだっているし、運動神経抜群のβだっている。けれどβはどうしたってアルファには敵わない。βはαを前にするとその圧倒的な存在感に畏怖を感じてしまう者が多いとされていて本能がこのαには勝てないと判断してしまうという。しかし中にはαの美貌に羨望や魅了されてしまう者も少なからずいるらしい。
最後がΩ。Ωはアルファよりも更に稀少な存在であるとされていて、人口は約1割を満たすか満たさないかと言われている。そんな数少ないオメガは今の世の中では劣等種として新聞やニュースの記事によく取り上げられている。何故、Ωを劣等種と非難して呼ぶのか……それはΩの身体的特性からあるとされていて、Ωは男性でも子を成せると言われている。またΩには3か月に一度、発情期という自身の身体からフェロモンを放出するとされていて、そのフェロモンに充てられるのがαやβである。
夕方のニュースでもよく見かける『番のいないオメガがフェロモンを出して誘惑してきた』とインタビューで赤裸々に話すβの被害者。出演していたコメンテーターでさえΩを擁護するコメントはなく、今の日本社会ではΩに対して風当たりが強いという現状だ。
どこにでもいるような極々一般的なβの家系。
家族も、親族も皆β。
だから自分もβであって当然だと、なんの疑いもなかったのに……。
「うそ、だ……」
中学へ入学する前に行われる就学時健康診断の封書。
その中のバース性診断結果と書かれた欄に何度も目を落とす。
自分の名前から住所と生年月日、血液型は合っているか何回も目を走らせ確認して、全て自分と一致する。
（間違いじゃない）
だったら、これは悪い夢だろうか。
いつもは笑顔でいっぱいの泣いたところなんて見たことないお母さんが嗚咽を漏らして泣いているのも。
常に明るくエネルギッシュでどんなことにも動じないお父さんが茫然と静かに立ち竦む姿も。
（きっと全部悪い夢だ）
夢なら早く覚めて、いつもの笑った顔のお母さんとお父さんに会わせてほしい。
けれど、そんな儚い願いは頬を伝う涙によって打ち消される。
絶望で冷えきった心と体とは対照に、目に溜まった涙は温かく、溢れて零れ伝った涙の跡だけが最後に冷たく残る。
その僅かな温度が、これは現実なのだと突きつけた。
（夢でもない）
膝から力が抜けて、床にへたり込む。
目の前が真っ暗になっていく感覚。これからどうなるかという不安でいっぱいになったとき、ふわりと体が何かに包まれる感触を感じた。
「大丈夫、大丈夫よ」
「何があっても父さんたちが必ず守るから」
両隣から優しく寄り添うように抱きしめられたのは、大切な家族の温もり。
どれだけ辛い事実に打ちのめされても両親は傍に居てくれる。そのことが今の僕にとって何よりもの救いだった。
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