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(俺の大切な家族の話。) ※杉田のことにしおりをはさみました!
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(俺の大切な家族の話。) ※杉田のこと
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朔太郎に手を引かれて帰るという…
最近何かこういうの多いな俺。
もう恥ずかしくて埋まってしまいたい。
後輩の言葉に心のどこかを刺激されるとか。
自分で思ってなかったところをつかれてぐらつくとか。
縋っちゃえばいいんじゃないの?
そんな言葉が過る。
でもさ、誰に?どこに?
縋るってどうしたらいいの?
俺は親父と二人暮らしで。
母さんは俺が小学校上がるくらいに事故で死んだ。
優しくて強くて凛とした人だった。
甘ったれで泣き虫な俺をぎゅってして、時にはぶっ叩いて。
俺の自慢の母さん。
母さんが死んで親父と二人になって、親父は俺のために仕事頑張って。
家事も一人でやってくれた、暫くは。
でも朝早く家を出て遅くまで働く親父が帰って来てそんなことするなんてしんどいと思った。
彰嗣んちのおばさんが夕飯は食わせてくれてたけど、いつまでも厄介になるわけにもいかないし。
親父のためにも、俺も何かしたいって思った。
その術がわからなくて泣いてたけど、こっそり。
そんなある日、本当にどうしていいかわからなくて辛くて母さんの形見が入った箱を開けていた。
親父には一人では絶対に開けるなって言われてたけど、今すぐ見ないと耐えられないくらい俺は悲しくて不安で。
一つ一つ、そっと手を伸ばしては母さんを感じて泣いて。
そんなことを繰り返してた。
今までは親父と一緒に見てたから気付かなかったものをその時見つけた。
親父は俺に見せなかったんだと思う。
数冊のノート。
日記とかそういうものかと最初は思った。
でも、中身は料理のレシピとか掃除や収納の工夫とかそういうものが書き溜められたものだった。
手書きの、母さんの字と、ばあちゃんの字と、両方が書いてあるノート。
ばあちゃんが母さんに伝えて、母さんがこれを見ながら家族を支えて、親父もこれを見て今頑張ってるのかもしれない。
俺にこれはできることじゃないのかな
ノートを読み進めるうちに涙は止まって、俺の心は弾むようだった。
ノートを掴んだまま、彰嗣の家に走った。
彰嗣なんて目もくれず、おばさんに飛びついてノートを見せた。
それからおばさんに料理とか洗濯とか教えてって言った。
小学生の甘ったれの俺がおばさんに抱き付いて一生懸命訴える。
ノートを読んだおばさんは目を潤ませながら俺を抱きしめて。
それから一緒に夕飯を作るところから始めようって。
包丁の使い方とか、調味料の使い方とか。
色んな事をおばさんは優しく教えてくれた。
一人でできるようになるまで親父には内緒にしていた。
恥ずかしいし、もしかしたら叱られるかもしれないと思った。
ノートを見てしまったことを言えないでいたから。
少しずつ覚えて、一人でできるようになって。
ある日、初めて親父に弁当を作った。
ご飯を炊いてオニギリ作って、玉子焼きとウインナーを焼いて、キュウリを塩もみして、それしかできなかったけど。
それでも親父は驚いて、笑って、すごく久しぶりに俺をぎゅっと抱きしめた。
忙しすぎて生活の時間帯が違い過ぎて週末しか会えなかったから。
月曜日の朝、親父よりも早く起きて弁当を作って渡して。
米の柔らかい梅干しオニギリ、形の崩れた玉子焼きにちょっと焦げたウインナー、塩辛いキュウリ…本当に下手くそで不細工な弁当。
パジャマ姿で寝癖ぼさぼさの親父が間抜けな顔して。
エプロン汚しまくってる俺を抱きしめてありがとうって言って。
その日から、俺が家事をするのを親父は見守るようになった。
本当は彰嗣のおばさんに言われて俺がノートを見てしまったこともおばさんにいろいろ教わってるのも知ってたみたいだけど俺が言うまで黙ってたみたい。
俺が家事をするようになってから親父はなるべく夕飯を一緒に食べるようになった。
時々彰嗣が食べに来るようになった。
弁当も作って、時々お菓子とかも作って彰嗣のおばさんにあげたりして。
洗濯だって掃除だって、苦痛にはならなくて。
でも、ちょっとの寂しさは拭えなかった。
中学に上がる頃にはノートに書いてある料理はほぼ作れるようになってた。
調理部にも入ってレパートリーを増やしたり、親父や彰嗣以外にも部活仲間とか振る舞う相手も増えた。
お料理男子の称号をもらった。
高校は弁当男子になった。
ドン引きされるんじゃないかと思ってた割には皆褒めてくれてホッとした。
今まで関わりそうにもなかったチャラい奴、オタクな奴とも友達になった。
手放しで俺の料理を褒めてくれるし料理だけじゃなくて女々しい特技を肯定してくれる良い奴らだ。
最初こそクラスメイトに女っぽい気持ち悪いと言われたけれど、こいつらがすごいじゃんと褒めてくれて、何かと構ってくれて。
気付いたらクラスに馴染んでて、やれシャツのボタン取れた、ソース飛ばした、どうにかして?って…オカンか俺。
でも、こいつらが構ってくれてなかったら逆に苛められてたかもな、とか思う。
まぁ性格的にブチ切れてドン引きされて敬遠されるんだろうけど。
苛められないにしてもぼっちだな。
俺ってば、すごく周りに恵まれてる
しみじみ思う。
好きだとか何だとか、ちょっと立ち位置変わりつつあるけど。
でも、親父と彰嗣んちの家族とだった俺の世界が、どんどん広がっていく。
可笑しいな、こんなだったかな俺って。
甘ったれで泣き虫でしょっちゅう母さんに引っ付いてたのに。
後輩に世話焼いたり、ダチに飯作ったりなんて絶対できるような奴じゃなかったのに。
成長したのかな変わったのかな。
「母さんに似てきたのかな?」
男なんだけどね俺、なんてちょっと笑う。
母さんみたいに強くて優しくて凛とした人になりたい。
親父みたいに真面目で思いやりのある男になりたい。
昔の甘ったれにはなりたくない。
縋るだけなんてなりたくない。
縋るくらいなら、凭れあう。
お互いに支えあえる存在なら、一緒に居たいと思う。
「親父と、母さんみたいなそんな関係なら…いいよな」
写真立てで幸せそうに笑う母さん。
寝る前にお休みってそれに微笑む親父。
幸せがまだまだ続いてる二人。
ずっと、親父は幸せで。
その幸せを俺にも分けてくれる。
俺もそんな、幸せを分け合えるようになりたい。
杉田のこと
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