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ファミレスにしおりをはさみました!
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ファミレス
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「こんなに色々あると、ファミレスみたいだよね」
「ふぁみれす?」
「そう。ファミリーレストラン。家族連れでも気軽に入りやすい形式にしたレストランだよ。もしかして、行ったことない?」
「外食は……高いから……あんまり」
「そっかぁ。 デートとかで行くのも嫌だって子も居るしね」
「なんで?」
「なんか、自分も喜ばなきゃいけないとか強制されている気がして嫌なんだってー」
「なんで?」
「さぁ、ポリコレじゃない? 前にも、胸を強調した服を着た女性がファミレスに居る写真がネットで炎上してたし」
二人がなぜか不毛なファミレスの話をしている間に、俺は各テーブルを見渡してみた。
スーツの人。普段着の人。意外と男女入り混じっているが、此処にそもそも呼んだリュージさんの姿はやはり今も見えなかった。
――今から葬儀会館に打ち合わせに向かって、終わったら、また会社に戻って……こんな時に限ってヘビーな修正ばかりある……
――この前のパンフの修正「このページだけ、地図の背景色が違ってる」って指摘があった。そりゃ画像取り込みだもんっておもったんだけどぉ。色まで合わせようとおもったら、描き直さないと。
――うぅう。メンタルが崩壊しそう。ゆっくりさせて……。
――一枚目は表紙なのでノンブルずらせだってさ
――得意先行ってた社長から「スポーツ選手のときのアルバム冊子の修正、そろそろやばいで」って言われた。
やばいでと言われても……こっちは一人なんだけどぉぉ。
何処でも大変な時期なようだ。
「どうかしたの?」
ぼーっと雑音に飲まれていると、肩を掴まれた。
色が戻ってきていた。
「いや。社長がお得意先から、また納期の短い仕事を、たくさん持ってかえってくるらしい」
「え、誰の話?」
「いや……なんでもないんだ」
「そう」
あまり関心が無かったのか、今度は嬉しそうに、置いてあったチキンナゲットを俺に見せてくる。
「貰っちゃった、食べる?」
「お前、好きだな」
色は戸惑ったように視線をさ迷わせた。いつものように即答しない。
「す、き……」
どこか曖昧な発音でそれだけ答えると、視線が床を向く。
重みのある「好き」だった。
たぶん気心が知れている俺に普段言っている以上に、その言葉は重たい。
「す、すき……、浮気に……入る?、どうしよう。食べちゃった……うわ……」
「大丈夫だよ」
好きな物を持つことそのものがどれだけ重みのある行為なのか、彼にとって奇跡のようなことなのか、それだけでも充分に伝わる。
大丈夫だと言ったにも関わらず、色は動揺したままだった。
ぶりの照り焼きに好きだというだけでも酷く気を遣っていたので、本人にとっては重要な事項らしい。好きな物があることが嬉しいことと、新たに好きな物が生まれることとで、順位をどうしようか、一生懸命悩んでいる。
「あの人」や「元社長」らに監視されなくなって、初めて生まれた、彼の世界。
もう理不尽に取り上げられなくて良いのだと思うとなんというか感慨深い。
「いろんなものを知らないと、何が特別かもわからないもんな」
これから好きなだけ悩んで、順位を付けて、比べて、考えると良い。
「あ。橋引は?」
ふと、周囲を見渡して橋引が居ないことに気が付いた。
「たぶん、菊さんのところ……」
(2022年2月12日9時59分) ー(2022年2月15日20時43分ー2022年3月2日0時31分加筆)
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