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SS☆お題「痛いの痛いのとんでいけ」にしおりをはさみました!
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SS☆お題「痛いの痛いのとんでいけ」
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『喧嘩した…』
「はぁ?また?」
俺の好きな人は、可愛い彼女と喧嘩をする度に俺のところへやってきてグズグズと愚痴をこぼします。
全く、人の気も知らないで…。
「で、今回はなに?何が原因?」
『…………』
「…?ねぇ、どうしたの?」
いつもなら煩いくらいに、それはそれは些細な…他人が聞けばただのバカップルじゃないか!と言いたくなるような理由で喧嘩をしたと言いながら、ああでもないこうでもないとその原因を話し始めるのに。完全にのろけ始めるはずなのに。
今日は何故か下を向いたまま言葉を発そうとしない事に首を傾げた。
『…………た…』
「え?」
それはとても小さな声で。
それはとても震えた声で。
それはとても、とても…。
『好きな人が…出来たって…、そう言われた…』
「…え」
『俺の事が…嫌いになったとか。そういうんじゃないって…』
「…うん」
『だけど、好きな人が…出来たって…』
「うん」
『俺のどこがいけなかったのかな…』
「……」
最後は掠れた声で。
俺の耳に微かに聞こえるような声で。
そんな声に堪らなくなって、小さく震える身体をそっと抱きしめる。
「大丈夫。お前に悪いところなんて無いよ。あの子が運命の人じゃなかった、ただそれだけのことだ。大丈夫。俺はお前の良い所や好きな所、たくさん知ってるしたくさんあるよ?ね?だから大丈夫」
真面目なとこも。笑った顔がカッコいいとこも。本当は人一倍寂しがりやなとこも。友達思いなとこも。優しいとこも。正直なとこも。
あの子が本当に好きだった事も。
あの子の為にこうして心を痛めている事も。
そして、こんな風に平静を装って君を抱きしめる俺の気持ちになんて全く気づかないくらいに鈍感なとこも。
どんな君だって、俺にとってみれば大事な人でしかなくて。
どんな君だって、俺は好きだから。
『…ふ……、…ごめ…俺…』
「大丈夫大丈夫。誰も見てないから。涙ってね、心についた汚れや傷を全部綺麗にして洗い流してくれるんだって。だから泣きたい時は泣いていいよ、きっとスッキリするから」
そう言ってその背中をポンポンと叩く。
こんな風に泣けてしまうほどに、あの子が好きだったんだもんね。
それなのに。俺が手に入れられない君の心を、あの子は簡単に手に入れて簡単に手放してしまうんだ。
…あぁ、どうせなら。
あの子に嫉妬する俺の心についた真っ黒な汚れも、君の綺麗な涙が一緒に洗い流してくれればいいのに。
「ねぇ、覚えてる?俺が前に“お前がフられたら俺の好きな人教えてあげる”って言ったの」
そう言うと君は、ずっ…と鼻をすすりながらゆっくりと顔を上げる。
『…お前の…好きな奴の、話し?おま…普通今それする?傷心の俺に…』
「うん、する。きっと笑うと思うよ?」
『笑うような相手なの?誰?』
まだ抱きしめた状態で、不思議そうに見上げてくる君を見つめる。
少し不安そうに、少し悲しそうに。それでも少し楽しそうに。
ごめんね。
俺はとても狡いから、弱ってる君につけ込むみたいに今からその答えを教えることにするよ。
なんてね。
だけどやっぱり俺は、君が傷つかないように…冗談言うなよって笑ってくれるように答え合わせをするんだろう。
「俺、お前が好きだよ」
君に悟られないように、ニッコリと笑ってそう言うんだ。
『……………はぁ?』
そうすれば一つの沈黙の後、間の抜けた君の声が聞こえて。
「どう?笑えた?」
全部冗談だって思わせるようにそう言えば、きっと君は笑ってくれる。
『は…、あはは…!なんだよ、何なのそれ?笑うっつうか呆れるわ!どんな奴かって期待したのに!!』
ほら、ね。
「でもほら、笑えたでしょ?お前は笑っててよ。たかが失恋したぐらいで死ぬわけじゃないんだから。ね?」
『はは…は…そうだよな。あ〜お前がいてくれてよかったわ、マジで。ありがとう…』
そしてそんな風に君は、ほんの少しだけ穏やかに笑うんだ。
…そう。そうやって笑い飛ばしてくれていいから。俺の想いが届かなくても、そうして笑ってくれたならもうそれでいいから。
だから泣かないで。
君の心に付いたその痛みが、膿を持って深い傷になる前に。
痛いの痛いのとんでいけ。
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