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艮くんの焦燥。にしおりをはさみました!
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艮くんの焦燥。
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***
唇を奪われた。
正直に言えば渡辺にそんなことされるのは初めてじゃない。首筋同様、唇だって何度か噛まれたことはあるしその度に流血騒ぎになってフルボッコにした。だけどこんなのは知らない。こんな優しいのは……違う。
「久しぶりだなあ、艮ァ」
朝から絡まれるのは本当に久々だった。正確に数えちゃいないが渡辺に出会ってからだと考えれば実に三週間ぶりのことだ。
「俺らから逃げ回ってたのかよ」
「逃げるほどの相手だったか覚えてねえ」
「上等だァ!」
バチバチと火花が飛ぶ剥き出しの敵意。俺が浸かってたのはこうゆうのだ。優劣を決めるごく簡単な喧嘩。あんな本能剥き出しの命のやり取りじゃない。殺意が交差する視線じゃない。
「遅えよ」
大振りの拳を肩先で避け後頭部にケリを決めた。軽い脳震盪を起こしたのだろう、そのまま地面に突っ伏して起き上がる気配がない。
「次、誰だ」
付き添いに出てきた他の奴等は目が合うなり足早に去って、遠巻きに見ていたギャラリーもそそくさといなくなる。
生温い。
「…もっと本気でこいよ」
そんな生温い敵意じゃなくてもっと身体から湧き上がる、理性を食い尽くすような殺意が欲しい。狩るか狩られるかギリギリの死線で、暴力を交えたやり取りをしなきゃ意味がない。そうじゃなきゃあ意味がない。
「艮くん…保健室は昼寝する場所じゃないんだけど…」
「…腹痛いんで」
「さっき昼ごはん食べてたよね?」
「…」
「まあ昼休みだから大目に見るけど…」
保険医が渋々と簡易カーテンを閉めた。屋上以外で昼休みを過ごすのはどれくらいぶりか。教室は居づらくてとりあえず保健室に来てみたが当たりだったかもしれない。ゆるい保険医さえクリアしてしまえば昼休みくらいは潰せるだろう。第一、教室は渡辺の来る可能性が高いし。
「…」
手首についた歯型。綺麗な半円を描いてクッキリと紫色の痕になっている。その横には赤い斑点、肩口にも数カ所噛み痕があるのか触ると少し凸凹してる。首筋は言わずもがな、触れば軽い痛みが走った。こっちも紫に変色してるんだろう。奴は噛み付く寸前に瞳を鋭く光らすからすぐ解る。優男に似合ない獣みたいな目をするのだ。食いたいと全身で言う。
首筋に触れてた指先で頬を触った。頬は噛まれたことも吸い付かれたこともない。肩口に頭を乗せられてときおり髪が撫でるくらいだ。耳は…あんまりいい思い出がない。痛くはないがしょっちゅう軽く噛まれる。そして決まって少し低めの声でどうでもいい事を囁くのだ。耳元は息も掛かるしダイレクトに声が脳に響くカンジで好きじゃない。
「……っ、」
そうやって少し湿り気を帯びた音を耳元でさせてこっちの力が抜けたのを図ったかのように首筋を狙う。鋭い死線の交わし合い。それが大体の流れ。だけど、あの日だけは違った。えらく無垢な眼差しで、優しく引き寄せられて慈しむような口づけをされたから。薄くて柔い唇で。
「……っ、ン…ッ、」
俺らはそうゆうのじゃないから尚更。
「艮くん、お昼終わるよー」
「!」
「…大丈夫?」
「…」
「顔赤いよ?」
「……腹痛いんで…」
だから思い出してシちまうなんて。こんな盛ってイッちまうなんて。
「……クソっ…、」
あり得ない。だからその日俺は珍しく学校を早退した。
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