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渡辺くんの憂色。にしおりをはさみました!
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渡辺くんの憂色。
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***
艮くんがいなかった。
「午前中まではいたよ?昼休みはいつもいないし…。あ、鞄がないから帰ったのかなあ」
いつもの屋上で待てど暮らせど現れなくて、昼休みは終わってしまい午後の授業が始まろうとしてる。なのに、艮くんがいなかった。
「渡辺、艮くんと仲いいの?」
「…」
良いと思ってたんだけど。そう言われると家どころか連絡先も知らない。艮くんて、そもそもケータイとか持ってたっけ。
「超仲いい」
少なくとも仲は悪くなかったはずだ。だけど、いつも通りがいつも通りにいかなくなったらこうもすれ違うほど砂上の関係にはあったらしい。
「…困ったなあ」
ここのところ軽く抱き合うだけでマーキングらしいマーキングをしていなかった。そもそも軽く噛むくらいじゃあ匂いは簡単に消えてしまうものだ。継続できていたからそれくらいで我慢していたのに。
「襲われてないと良いけど…」
「艮くんなら大丈夫だと思う…」
いやいや、あんなフェロモン垂れ流しで歩いてるのに?あれじゃあどんな程度の低い退治屋や鬼でもすぐに嗅ぎつけてしまうだろう。喧嘩は強いくせに自身の範疇外となると艮くんは殊更無防備になる。うーん。マズイなあ。
「…」
ほんの少し前までは、お互い顔を合わすことすらなかったのに。一度知ってしまっただけでこんなにも会わない一日が味気ないなんて。
「明日来たら渡辺が探してたって伝える」
「お願い」
だけど艮くんは次も、その次の日も、学校には来なかった。
「頼まれてた出品リストだけど…、」
「…」
「…どうかした?」
「…別に」
あれからもう三日。学校には病欠の連絡がいってるらしいけど真実のほうは定かで無くて、担任から聞き出した自宅にも訪ねてみたがどうやら友達の家に出掛けてるらしい。友達って…ヤンキーに絡まれてるのしか見たことないんだけど。友達ってアレ?アレのことなの?
「この間のハツラツさはどうしたんだよ」
「…行方不明」
「は?」
「捜索中。良いからリスト頂戴」
「何だよ、機嫌悪いな…」
呆れてる同志を無視してオークションの出品リストをもぎ取った。先日耳にした、混血の鬼を出品しているという怪しいオークションのリストだ。
「…混血二名、出てる」
「本当だ」
「写真は?」
「ないよ。流石に写真までは…」
「じゃあ、特徴とか名前は?」
「公に出来るようなやつじゃないし…なに、混血探してんの?」
探してるけど…探してない。
「興味なさそうだったのに」
「どんなのが出品されるか知りたい」
「会員じゃないと無理だよ」
「じゃあ、なる」
「待て待て待て。本家本元がこんなオークション出たら駄目だって」
慌てて止められて苛立ちが募った。じゃあどうしろって言うの。もしこの中に艮くんが居たら、
「…殺気がモロに出てんだけど…」
「…」
本当はそんな簡単に艮くんが捕まるとは思ってない。少なくとも自分の残り香がしている間は誰も手を出せないと自負している。それほど本家のバックは甚大だ。この世界に少しでも足を踏み入れていればそんな馬鹿をするやつはいない。だからこのイライラは他の退治屋の手つきを心配してるんじゃなくて、
「……友達って誰だろう」
自分の知らない世界が艮くんにあると知って嫉妬しているだけ。
だって艮くんのあの仏頂面に隠されてるあどけない顔だとか、ドキリとするような表情とか、優しい手も温かい身体も全部、自分でない人間も知っているかもしれないなんて。そう考えただけで、心臓のあたりがイライラとムカムカでぐちゃぐちゃして痛い。
…何で此処にいないの、艮くん。
「大丈夫かよ」
「…大丈夫じゃない、心臓痛い」
「ええ!?」
早く触れないと、爆発しそうだ。
「お前がそんなに鬼を探してるとは」
「変?」
「意外。…嫌そうに見えたから」
退治屋って生業も。生き方も。
そう言われて何となく否定出来なかったのは奥底に心当たりがあったからかもしれない。
「まあ…我慢出来なかったからね」
「え?」
「食わず嫌いをやめただけ」
実際に触れた唇は甘くて美味しかった。
「詳細調べといてね」
「それは構わないけど」
「頼んだよ、じゃあね」
「待てよ、綸」
「?」
「お前、それ退治する気?」
引き止めた同志が真剣な顔して尋ねた。
「さあね」
でも離れるのは苦だと知ってしまった。
だから早く戻っておいでよ、艮くん。
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