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艮くんの青春。にしおりをはさみました!
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艮くんの青春。
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***
人は死ぬまでに三度モテ期が来るらしい。
「艮くん、おはよう。」
「艮くん、休んでた間のノートみる?」
「艮くんって喧嘩強いよねー!」
誰しも人に好意を持たれることに対して悪い気はしないと思う。確かに悪い気はしない、しないかもしれないが、
「…艮くん、彼女いるの?」
ここまで来ると最早ただの恐怖だ。
「お盛んですねえ。」
付きまとう奴らを死に物狂いで撒き、屋上に飛び込んだ俺を見て渡辺がそう言った。ニコニコと相変わらずムカつく顔で見下ろしてる。
「ザケんな!こりゃどうゆうことだッ!」
「春が来たんじゃない?」
「ンなわけねえだろ!」
自慢ではないがこれでもそこそこ名の知られたヤンキーでご同類の奴ら以外に校内にて声をかけられたことなどない。女どころか男だって近づかないほどだ。俺に話しかけようなんて物好きは渡辺ぐらいしかいない。
「本当に自慢じゃないね」
「うるせえッ」
それが何故だ。久々に登校してきた辺りからクラスの奴らが急に近寄りだしやたらと話しかけてくる。女だけじゃない、男まで甲斐甲斐しく周りをウロつきだしたのだ。不気味すぎる。
「仕方ないよ。艮くん、色香がだだ漏れだもん」
「色香ァ?」
「そ。人を誘う色香がだだ漏れ」
いつものようにフェンスまで追い詰めてきた渡辺がその指で俺の首筋を撫でた。ビクリと身体が固まって、いっきに熱が上昇する。
「タガが外れたみたいに溢れ出ちゃってるから普通の人間にまで影響が出てるんだよ」
首筋を撫でてたはずの手が何時の間にか下までおりてて内腿をなぞった。
「誰を誘ってるの?」
「だ…誰って…」
「誰でも良いの?…酷いな」
「誰でも良いわけ…!」
「ない?…だったら誰を誘ってるの?」
「…な…っ、」
「誰を誘ってるの?」
意地の悪い質問。これではただの誘導尋問だ。答えを待ってる渡辺の顔が憎たらしい。ひとつしかない答えがグルグルと脳裏をよぎる。「ねえ」と急かされ、ギュッと目を瞑むった。そのまま頭を振り上げる。
「痛ァ!」
「茶化すなッ!」
「…ちゃ…茶化してないよ。艮くんの口から聞きたかっただけで…、」
躊躇いもなくそう口にする男に再度頭突きを食らわす。
「とにかく!!このままじゃオチオチ便所にも行けねえ!」
「…?便所?」
「野郎がついて来るんだよ便所まで!」
「…」
頭突きを食らって蹲ってた渡辺が顔をあげた。
「…本当?」
「何で嘘つく必要があンだよ。 」
俺の返答に渡辺はしかめっ面をして「それはちょっと頂けないかも」と、やっと本腰を入れた声で呟いた。
「でもこればかりは艮くんが何とかしないと」
「どうやって」
「コントロールするんだよ」
「…コントロール?」
「フェロモンを調整するってこと」
「ンなこと出来たら苦労し…!」
「しないと、ずっとこのままだよ」
すっと唇に人差し指を当てられてハッキリと言われてしまった俺は何も言えずに押し黙った。このままでは困る。かなり困る。
「と言っても僕にはアドバイスが出来ないし…普通だったら血縁者が教えてくれるんだろうけど」
生憎、教えてくれそうな血縁者はいない。
そもそも鬼の知り合いなんて、
「あ」
「?」
「玄なら解るかもしンねえ」
「玄…?ああ、あの純血の?」
「少なからず俺より何か知ってるはずだ」
「まあ…かもね」
「この間の場所に行けば会えんじゃねえか?」
「うーん…かもね」
「何だよ。歯切れの悪い返事しやがって」
「出来れば会いたくないんだよ」
「何で」
「一応、敵同士だし」
「…」
今更?と思った。が、渡辺の表情は意外にも真剣で冗談で言ってる訳ではないらしい。玄に…鬼に会う事が本当に気の進まない事なのだろう。渡辺の言うとおり敵同士なのだ俺らは。
「どうしたの?」
急に黙りこくった俺を不思議に思ったのか渡辺が俯いた顔を覗きこむ。
「…敵ってのが嫌だった…?」
「…別に」
「嘘が下手だね、艮くんは」
ニッコリと笑ったやつの口が唇に事故みたいに軽く触れた。
「僕らの話じゃないよ」
「否でも、」
「僕らの話だけど、僕は君をそう思ってない」
渡辺の瞳は真っ直ぐで何も言葉が出てこなかった。その瞳に射抜かれるともうどうしようもないのだ。身体の中が騒ついて芯が熱くなる。そんな真っ直ぐにぶつけてきやがるから、
「…色香増しちゃってるよ?」
「…うるせえな……、…ょ、」
「?」
「て…てめえを誘ってっからだよ!」
不覚にもその瞳に応えたいとか、馬鹿なことを考えてしまうのだ。
「反則だよ…それ」
渡辺がため息混じりでそう呟いて後頭部を引き寄せた。唇に熱。今度は事故で済まされないほど、唇も咥内も熱かった。
「覗いてみようか。あの通り」
「?」
「あの純血の子に会えるかも」
「良いのか?」
「うん。それが最善の策だと思うし…」
「…思うし?」
「艮くんは僕のだから」
「……は?」
「これ以上、他の人間にベタベタされるのは癇に障るってこと」
だから早く習得してね。と笑う渡辺に変なプレッシャーを感じながら俺は恐る恐る頷いた。これで習得出来なかったら一体どうなるのだろう。想像するだけで恐ろしい。
これは結構重大な試練かもしれない…。
俺はそう考えて少しだけ滅入った。
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