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艮くんの心奥。にしおりをはさみました!
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艮くんの心奥。
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***
ー 此処は何処だ。
真っ暗で音もない。方角は疎か自分が何処を歩いているのか、いや歩いているのかも最早怪しい。暗闇。先が見えなくて息が苦しい。呼吸の仕方を忘れそうになる。
ー 何で此処にいるんだ。
誰かに追われてる気がした。どうしても逃げないといけない気がした。それはとても真っ黒で底が見えなくて怖くて、怖くて逃げた。振り返ったら捕まる。捕まったらもう帰れない。会えない。
ー 会えないって誰に?
「…誰?」
幼い声がした。振り返れば小さな子供が体育座りで縮こまっている。自分と似た赤い髪色の褐色肌の子供。歳は小学生になったばかりといったところだろうか。こちらを不安そうに見てる。
「…出口を探してんだけどよ」
「ないよ」
「ない?」
「うん」
「じゃあ、お前は何してんだ?」
「…かくれんぼ」
「かくれんぼ?」
「かか様が隠れてなさい、て」
辺りを見回すが母親らしき者は何処にもいない。いや母親どころか人影などありもしない。此処にいるのは目の前の子供と自分だけ。
「誰にも見つかっちゃ駄目なの」
「どうして」
「僕、化け物だから」
子供の口からその言葉はサラリと出た。
「化け物は皆といちゃ駄目って」
「誰がそんなこと」
「かか様も長老も、みんな言う。お前は人間を傷つける化け物だって」
子供は悲しい顔をしていたけれど泣かなかった。もとい泣けなかったのかもしれない。
「好きで隠れてんのか?」
「違う…けど」
「だったら隠れなくて良いだろ」
「でも….怖いから」
「怖い?」
「僕が本当に化け物で皆を傷つけたら…」
いつかこの手で大事な人を傷つけてしまうかもしれない。泣かせてしまうかもしれない。それが怖くて怖くて、隠れてる。だってもし本当に化け物だったら?
「そうなるくらいなら、隠れてたほうがいい」
「…」
「そうでしょ?」
「それは…」
そうかもしれない。
知らなかった事にしたほうがいい。無かった事にしたほうがいい。傷つけてしまうくらいなら。失ってしまうくらいなら。
ー お前を殺してしまうくらいなら。
「会わないほうがいい」
ー 本当に?
「…違えよ」
「え」
「俺だったら隠れてて欲しくねェ。そんな寂しい顔させてまで安全なとこに居たいとは思わない」
大事な人に寂しい顔をさせるくらいなら傷つけられたほうがまだマシだと、自分ならそう思う。
「色んなもの引っくるめてお前の事を想ってる奴がいる。出てきて欲しいと思ってる奴が必ずいる。少なくとも俺はそう思ってる」
例え傷つけてしまう事が本当だとしても受け入れる覚悟があるから。
「出てこい」
隠れる必要なんかない。
「…綱も僕に言った」
「ツナ?」
「隠れなくて良いよって。出ておいで、て。…僕の最初の友達」
「じゃあ、そいつも待ってるよ。お前の事」
パァっと目の前が開けたみたいに子供の目が輝いた。きっとずっと前からこの子供だって出たかったのだ。隠れたくなんか無かったのだ。
「一緒に出ようぜ」
「…お兄ちゃんは?」
「あ?」
「怖くない?此処から出るの」
俺の腕を握りながら子供がそう尋ねた。
「…怖ェ…かな」
「大丈夫?」
「どうだろな。解んねえ」
出たら傷つけてしまうかもしれない。失ってしまうかもしれない。でも、まあ…。
「そうなる前に殺してくれんだろ。俺の場合は」
俺が望まない事をしてしまうくらいなら、きっとそれを選ぶ。初めて会ったときからそう言ってたではないか。俺が会いたいのはそうゆう奴だ。恐れることなど何もない。
「…変わってるね」
「そうか?」
「会えるといいね」
「おう」
歩く先に光が見える。
「そういや…お前、名前は?」
振り返ると小さかった光が急速に広がり、やがて全身を包みこんだ。掴んでいたはずの子供の手が離れる。
「僕は、」
子供の笑顔が最後に見えた。
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