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艮くんの疑問。にしおりをはさみました!
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艮くんの疑問。
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***
坂田サンが探ってくれた新たな真実。だけど俺に今すぐ出来る事なんてないワケで。
「「お兄ちゃん、焦げてる!」」
「…あ?」
左右から聞こえた呼び声に我に返り目の前のフライヤーに視線を落とした。キツネ色を通り越した唐揚げがバチバチ音を立てて浮いている。「ヤベッ」と声をあげてバットに移すと同じ顔の男女が両隣から俺を覗いた。
「あーあ。からあげ」
「からあげ」
「…何とか食える範囲だろ」
「「お兄ちゃんが失敗とか珍しいね」」
似た顔の男女が息ピッタリに話しかけてくる。年の離れた双子の妹と弟。二卵性のはずなのにコイツらときたら顔もソックリで言うこともほぼサラウンド。いい加減慣れたけど未だに双子の摩訶不思議にはギョッとする事がある。
「お父さん折角帰ってきてるのに」
「失敗食べさせるの勿体ない」
「「お兄ちゃんのご飯美味しいんだから」」
「…そらどうも。じゃあコレお前らのな」
「!!」
嘘だよ。ビックリしてる双子の口に唐揚げを放り込む。自分も一口食べてみるが…まあ食べれない事もないので自分用にしよう。
「親父は?」
「「お風呂ー」」
今日は珍しく親父が家にいる日だ。長距離トラックの運転手をしてる親父は日頃家にいない。西に東に走り回る所謂トラック野郎だ。その親父が珍しく家に帰って来てるもんだから妹たちも浮き足立っていつもよりワチャワチャ五月蝿い。
「お。唐揚げか」
背後から上半身裸の親父が声をかけてきた。どうやら風呂は終わったらしい。
「風呂空いたぞ。お前ら入ってこい」
「「はーい」」
「私が先ね」
おふくろに似て強気な妹が弟を制して風呂場へと消えていく。双子と言えども力関係はあるらしい。弟は文句も言わず居間でテレビを見始めた。
「龍美」
「あ?」
「風呂場に落ちてたけどお前のか?」
親父の手を見ればクズから貰ったいつぞやの小袋。正確には鬼の匂いを消すとゆうあの袋を手にしてる。
「あ…」
色々あって落としたのにも気づかなかった。咄嗟に言葉が出てこず思わず黙る。
「えっ…と…、」
「これ御守り袋だろ?」
「え?」
「柊の葉だもんなコレ。小さい頃、父さんも作ったわ」
「…………は?」
親父が懐かしそうな目で小袋を見ている。色々突っ込まれる前に誤魔化して回収しないと。いやそれよりいま何て言った?ヒイラギ?御守り袋?…つうか、
「その袋のこと…知ってるのか?」
「え?ああ、まあ」
「何で…」
「何でって別に…小さいころ近所の姉ちゃんに習ったんだよ、コレ持ってたら厄除けになるって」
「厄除け?」
「手首に巻いた紐が切れたら願いが叶うとか、ガキの頃そうゆうのが流行ってたからなあ」
あれが…流行り?
いや。あれがクズから貰った物でなければ流行り廃りの一種で終わらせていたかもしれない。けれどあれは違う。あの袋だけは迷信の一言で終わらせられる代物ではない。だって「あれ」は「本物」だ。
「近所の姉ちゃんって誰だ、知り合いか!?」
「何だよ…やけに食いつくな」
「いいから!」
「??知り合いって程のもんじゃ…近くの公園でよく会う姉ちゃんでたまに遊んでもらってたんだよ。まだ3、4歳の頃だ」
「名前は…」
「教えて貰ったかもしらんが…忘れたなあ。綺麗だった、てのはぼんやり覚えてるけどなあ」
クズの顔が脳裏にチラつく。
「…習ったんだな?」
「あ、ああ。?」
「綺麗な、女に」
男か女か判りにくい中性的な顔立ち。酒呑童子を伴侶と呼び、俺にあの小袋を渡し、俺の家族を守ると言ったあの男は…
「……初めから知っていた…?」
てっきり俺が酒呑童子の気を撒き散らかしたから見つかったのだとばかり思っていた。けれど渡辺が俺を見つけるよりももっとずっと前からクズの、茨城童子の一族は酒呑童子の子孫を知っていたのではないか?
だとしたら、今更なんで俺に…。
「…龍美?」
連れて来られたミヤのいる店。
俺が拐かされていなくなったクズ。
ミヤのアジトを渡辺たちに教えた輩。
もしも、
もしも、これが偶然じゃなかったら。
「どうした?具合が悪いなら後は父さんがやるぞ?」
(ー 「覚えておいて下さいね。どんな決断を下そうとも私は貴方と貴方の家族を守ります。命をかけてでも。それが伴侶である私の務めです」)
「…くそ……、」
全面的に信じてた訳じゃないはずなのに。
「…大丈夫。やる」
親父の手のひらから例の小袋を引ったくってズボンのポケットに突っ込んだ。後は悟られぬよう普段通りを振舞って食事の支度に勤しむ。親父もそれ以上は何も聞かず弟のいる居間へと引っ込んだ。それでいい。家族は出来れば巻き込みたくない。
ポケットに仕舞った「お守り袋」。
「……一体どんなつもりで俺にコレを渡したんだよ…クズ」
思わずそう呟いたけど、
誰も答えてはくれなかった。
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