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艮くんの心臓。にしおりをはさみました!
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艮くんの心臓。
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***
「失言した」のだと思う。
あれから微妙に渡辺から距離を置かれてる俺は、全く会話がない訳でもないが明らかに業務的なやり取りしかない、本当に微妙な距離を保たれていた。まあ正直…しんどい。
「…艮さん?」
「……玄?」
ぷらぷらと当てもなく歩いてた学校帰りで突然目の前に現れたのは見知った双子の兄弟だった。
「何でお前らが…」
「そりゃァこっちの台詞だ。ここ、安部の社だぞ」
「え?」
当てのない帰り道のつもりだったが自然と足は以前訪れた神社に向かっていたようだ。相変わらず薄暗くて鬱蒼としてる。
「…身体、平気ですか?」
「身体?別に。??」
「オメェ、案外頑丈だなァ」
「?」
双子が俺を見て妙に感心してる。
「この社に用だったんですか…?」
「いや…当てもなく歩いてたら偶々…」
「退治屋の姿が見えねェが」
「ンな毎日一緒じゃねえよ」
「…そうなんですか?」
「こんな時期に野郎がテメェを独りにするかァ?」
じーっと玄とチビが俺を見てくる。純血ってのは鼻も効くもんなのか?居た堪れずそっと視線を外した。
「まあ…ちょっと」
「喧嘩ですか?」
「…たぶん」
「多分だァ?」
「その様子だと…艮さんが一方的に彼を怒らせたようですね」
「あのなァ、テメェら自分たちの置かれてる立場が解ってンのか?喧嘩してる場合かよ」
「わ…解ってるよ」
俺だって怒らせるつもりはなかった。なかったケド「失言」はしちゃった訳で。しかも最悪な事に俺にはその失言が何だったのか実際のところピンと来てない。だから問題なのだ。
「どうせオメェが甘ちゃんなコト言ったンだろ」
…バレてる。
「なあ…お前らも茨木童子は敵だと思うか?」
「…九頭神ですか?」
「うん」
「まあ…信用はしてませんね」
「…だよな」
「オメェ…それ退治屋に言ったなァ?」
頷くとチビがこれ見よがしに盛大なため息を吐いた。玄も心なしか苦笑いしてる。
「ド阿呆ォ」
「なっ…何でだよ!俺はただ俺にも仲間がいたら少しは安心出来ると思っただけで…!」
「今も『仲間』はいンだろがよォ」
ぱちくりと瞬きする俺にチビは続ける。
「ま、オメェには近くに同種がいねェ。言わんとしてる事は解らんでもない。が、アイツもンな事は重々承知だろうよ。寧ろアイツが一番ソレを解ってンじゃねェ?…それとも」
「…?」
「今の仲間じゃ『安心出来ない』てかァ?」
「…、」
俺がいつか「敵同士」て言葉にショックを受けた時もアイツは笑って俺の事をそう思ってない、て否定してくれた。俺もそうだと思った。今もそう思ってる。けど…そんなアイツに俺は何と言っただろう。
「まあ、オメェの言ってる事は間違いじゃねェわなァ。オメェにとって茨木童子も退治屋も同じ『大事な仲間』てコトだろォ?なーんもオカシな事は言ってねェ」
チビがニヤニヤしながらそう言う。
同じ?
クズは鬼だ。だから仲間だと良いと思った。だって俺の知らない事を知ってるから。知れば守れるものも増えるから。じゃあ……
アイツは?
「…仲間じゃない」
「あァ?」
「渡辺を…仲間と思った事はない」
「……オメェ、それは酷、」
「仲間でないなら何だと思います?」
「え?」
「仲間でないなら…彼は貴方の『何』でしょう?」
チビの言葉を遮って玄が優しく問いかける。
渡辺が俺の「何」…か?
「…解んねぇ」
「よく考えて」
逃げるな、て玄の目が暗に語ってる。此処で模索しなけりゃ、きっと俺は二度と答えを見つけられないだろう。けど、解らないものは解らなくて。ハッキリと言えない。でも。
「…解んねぇ…ケド…、」
「…」
「クズと同じじゃない。仲間なんて言葉で一括りには出来ない。大事なもん、て意味なら仲間も家族も同じだけど…アイツはそうゆうンじゃなくて…、」
大事だけど、そうゆう単純な言葉で表せる形じゃなくて、そんなんじゃなくて…、
「…心臓」
「…え?」
「俺の…心臓みたいなもん…だと思う」
無くなりゃ、終い。
俺の答えに双子が目を点にしてる。そして暫くし互いの顔を見合った。
「…もっと単純な答えを期待してたのですが…」
「思ったより斜め上だったな…こりャ」
「…だ、そうですよ?」
玄が俺の背面にある境内に向かってそう発した。嫌な予感がして振り返れば的中。そこには気まずそうな顔した渡辺が立っている。
「…ごめん。立ち聞きするつもりはなかったんだけど…見張りから見失った、て報告があったから…その、」
渡辺らしからぬ歯切れの悪い話し方だった。俺も立ち尽くしたまま言葉を発せないでいる。「あーあ」とこれ見よがしな声を出しチビが本日二度目のため息を吐いた。
「もう終わりかよ。面白くなると思ったのによォ。興醒めだわ、帰る」
「…じゃあ俺たちはこれで」
玄が通り過ぎる間際、耳元で「頑張って下さい」と囁いた。何を?と尋ねる間も無く玄はニッコリ笑うだけで去っていく。
「…渡辺」
謝らないといけない事がある。
「ごめんね」
「え」
「解ってたんだ、艮くんが僕を信じてくれてる事。解ってたのに…自分に自信がなくて不安で君に八つ当たりした。…なのに…、」
ギュッと皺くちゃになるほどシャツを握りしめてる。俯いてるから顔が見えない。
「…嬉しかった」
「…」
「君の言葉」
ごめんね、て何度も呟く渡辺。
だけど耳が赤くて。
今まで何が起こったって何でもない様な顔してきたクセに。顔色なんかひとつも変えず何時も笑って誤魔化してきたクセに。なのに。俺なんかの言葉で。
「…顔」
「…え?」
「顔見てぇ」
俯く頬に手を当てた。引き上げたアイツの顔は案の定いつもと違って困ったような眉尻の下がった顔をしてて。照れてる、て一発で解った。触れた箇所が熱い。
…なんだよ。
なんだよなんだよなんだよ、
ガブッ、と筋の通った鼻先に噛み付いた。
「…悪かったとか、俺だって色々言いたかったのに…、」
渡辺が向ける視線に胸が締め付けられて痛い。金平糖みたいな傷にもならない甘い棘が次々胸から溢れでてしまって、
「ンな顔すンなよ、卑怯だろ…!そんな顔されたらすっげぇ…、」
「…?」
「すっげぇ…お前が欲しくなる…っ、」
やっぱりコイツ俺の心臓なんじゃねえかな、て思った。だってコイツの一挙一動に心臓がいちいち変になる。だから多分、いや、絶対。
押し倒した渡辺の目がまだ点になってたから可笑しくて心臓がキュッとなって今度は唇にも噛み付いた。
俺の心臓は噛んだら存外…甘かった。
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