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雨の止む日◇04にしおりをはさみました!
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雨の止む日◇04
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「あ、あのっ……!」
急いで近付くと、気づいた男が俺を見て「あ」と言うように口を小さく開けた。
「久しぶり、雨宿りの少年」
目を細めて笑う彼の笑顔は変わらなくて、思わず顔に熱を持った。
「お久しぶりです」
言いながら落ちている野菜を拾い集めると、男はありがとうとまた笑った。懐かしいと感じるその声に、妙に胸が高鳴った。
「カレー、ですか」
袋に詰められていく野菜を見て言うと、そうだよ、と頷いた。
「カレーが好きなんですか」
「ううん、そういう訳ではないけど……自炊をするとなると、どうも、ね」
うん?自炊をすると?
「もしかして、カレーしか作れないんですか」
尋ねると男は、はは、とだけ声を出して眉を下げた。
「カレーだけって、それじゃあ体に悪いんじゃ……」
魚とか肉とか、もっと別の何か、作れるようなやつだったら作ってあげられるのに。って、何を考えているんだ。と顔を押さえているうちに、隣で男が立ち上がる。
「手伝ってくれてありがとうね」
立ち去ろうとする彼を慌てて追いかけ、「俺も持ちます!」と片方のビニール袋を掴んだ。
「え、でも、」
「また落としたりしたら大変だし、両手が塞がっていると不便だろうから」
だから、あの、と言葉を選んでいる俺に、彼は宮崎さんの方をちらりと見てもう一度断った。
「やっぱり悪いよ。子供は子供らしく、友達と遊んでいなさい」
大人な対応が温かくて、でも苦しくて。
「もう帰ろうと思っていたから、大丈夫です」
俯いたままの俺は、情けない。
「彼女さんが、寂しがるよ」
彼女なんかじゃないのに。
真守だったら、文句の一つも言えたのに。
俺は強引に袋を奪い早足に歩きだした。宮崎さんには、「ごめん」とだけ乱暴に伝えて。
彼の困った顔は見たくなかったから、顔は見なかった。
長く重い道のりを、二人並んで歩く。
我儘を言ってここまで来たのに、部屋にまでお邪魔はできなかった。彼は「またカレーだけど食べて行くかい」と聞いたけれど、首を振り荷物だけ置いてさよならをした。
帰り際、玄関が閉まる音を確認して男の家をぼうっと眺めた。
「桑原、っていうんだ……」
名札をそっと指でなぞると、冷たい石の存在を感じる。
「下の名前はなんて言うんだろう……知りたいな」
あの静寂の空間で沈黙に耐えながら、聞きたいことは山ほどあった。
一目見た瞬間に気になり出して、どんな人なのか知りたい気持ちが溢れ出す。心のどこかで「やっぱり食べて行けばよかったかな」と欲張りつつも、これでいいのだと目を閉じた。
会いたいな。声が、聞きたいな。
もっと知りたい。
「ーー俺、この人が好きだ」
そう想った途端に、彼のことしか考えられなくなった。
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