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第16章ー1 課長佐久間と二人旅にしおりをはさみました!
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第16章ー1 課長佐久間と二人旅
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翌日。
「たぐちゃん、行くよ」
課長の佐久間の声で、田口は顔を上げる。
「はい」
「係長の分まで気張ってこいよ」
渡辺たちに見送られて、田口は佐久間と一緒に駅に向かう。
今日は、圭一郎率いるゼスプリ交響楽団の初回練習日。
彼らは、先週から来日している。
ここから、一ヶ月半。
日本に滞在し、全国各地で演奏会活動を行うのだ。
そして、今日はオペラ練習の初日というわけだ。
初回の練習に、担当者が顔を出さないわけにはいかない。
本来であれば、顔見知りの保住が行く予定だったが、なにせ全くと言っていいほど動けない。
明日にはコルセットができると聞いているが、電話をしても、痛みでつらい様子だ。
新幹線に乗ると、佐久間は大きくあくびをした。
澤井のワンマンぶりがすごくて、課長である佐久間と関わる機会が少ないが、温和で穏やかなタイプだ。
「たぐちゃん、これ」
佐久間は温かい缶コーヒーを差し出す。
「佐久間課長、いつの間に買ったんですか?」
「たぐちゃんが切符買ってくれているときだよ」
「ご馳走様です」
「たぐちゃんって、礼儀正しいよね~」
佐久間は、にこにこっとして田口を見る。
少し小太りな中年男子の佐久間と並んで座ると、なんとなく窮屈な感じはするが、まあそれはそれなのだろう。
田口も体格がいいのだから仕方がない。
本来なら、ここに座っているのは保住の予定だったのに。
「関口圭一郎って、世界的に有名だもんね。テレビにも出ていたっけ」
そういいながら、資料を眺めている。
田口は、ちょっとそれを覗き込んで、首を横に振った。
「すみません。おれ、テレビでも見たことがありません」
「素直だな~。それ、本人の前で言わないでよね」
「すみません」
「それにしても、局長に『よくリハーサル見てこい』って言われたけどさ。おれ、音楽のことはちょっとしか分からないんだよね」
佐久間は、そう言うが。
「それを言うなら、おれです。音楽は全く触れたこともありません。おれなんかが聞きに行ってもいいものかと思案しています」
「そう?たぐちゃん、音楽は、まったくやっていなかったんだっけ?」
「剣道ばかりです」
「へ~。だから姿勢いいんだ。羨ましい。いいね」
佐久間はそう言うと、田口の幼少時代について色々と話しを振ってくる。
話上手、聞き上手と言ったところか。
澤井や保住とは、全く違ったタイプの佐久間との時間は、田口にとったらなかなかいいものであった。
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