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92にしおりをはさみました!
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紫は普段気丈な顔をぐしゃりと歪め、ズルズルとその場に座り込んだ。
「嶋がああやって無防備に微笑むってところから考えると、あの子はきっとβかαだな。」
紫は足を伸ばして立ち上がると、前歯で軽く下唇を噛む。
「…あ~、もう。面倒くさい。詮索なんて、やめやめ。」
二人に背を向けながら、紫は一瞬、獲物を見定めた肉食獣のように双眸を鋭くした。
「…それでなくとも、嶋が女と喋っていると虫唾が走るのに。」
少女に向けて無垢な微笑みを向ける相手を思い出し、紫はジーンズの腰ポケットに両手を突っ込む。
「あんな風に親しげに笑顔を向けているのを見たら…アンタをとり殺したくなるよ、嶋。」
マンションまでの帰路を、紫は一人、背を丸めてとぼとぼと歩き出していた…。
一方、嶋は顔見知りの少女…いつかプールのある施設で絆創膏を渡した、ツインテールの中学生と話していた。今日はセーラー服ではなくわかりづらかったが、必死で追いかけた。
「本ッ当にすいません‼」
頭を深々と下ろされ、嶋はあわてふためく。両手をあわあわと振り回しつつ、どう話したものか困惑する。…というのも。
「いや…。あの、悪いけど困るのは君の方だと思う。」
Ωの中学生は、外だというのに首輪をつけるのを忘れていた。ただいま、絶賛タクシー待ちである。薬を飲んでいるとはいえ、項という弱点を曝け出したΩを歩きで家に帰すわけにはいかない。タクシー代はもちろん、嶋持ちである。…運よく、嶋は財布を持っていた。
「発情期は周期的とはいえ、突然訪れる場合もあるんだし。今は薬の携帯と同じくらい、首輪はエチケットだって叫んでいる輩もいる。君は知らないかもだけど、実際αに力づくで襲われた被害者に加害者は“そっちが見せびらかすみたいに露出していたのが悪い”って言いだす奴も多くないんだ。…気を付けるに越したことはないんだよ。」
少女を優しく諭しながらも、嶋は内心、複雑だった。
(…Ωに夜這いされて、誘惑されて、劣情を覚えた男の台詞でいいのか。これ…??いや、待て。Ωのナマ項に欲情したオレだからこそ、言う権利があるというものか…??)
悶々とする嶋をよそに、目の前の少女は利口にこっくりと頷く。
「…あの、ありがとうございます。何度も助けてもらって…。」
助けた、というより見捨てられなかったという表現のがぴったりである。…何故なら、だ。
(貞操観念ゆっるゆるのΩがうちにもいるんで…。とは言い難い雰囲気だよな、やっぱり。)
少女の足元から頭まで目を走らせて、嶋はまた一つ新たな事実を再発見してしまう。
(…身長、紫ちゃんと同じくらいかな。何ていうか、この子…。Ωって部分だけじゃなくって、理知的な雰囲気とか背丈とか妙にどっかの誰かさんと彷彿とさせるんだよな…。体感、誰かさんの五年前、みたいな。庇護欲そそるとか…。張本人に知られたら、変態認定されそう。…絶対、この子と紫ちゃんを会わせたくねぇ~。)
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