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[大学編019]迷走 2(非ホラー)にしおりをはさみました!
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[大学編019]迷走 2(非ホラー)
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「…やらかした」
「どうした」
最近、浮いたり沈んだりと忙しそうな友人はどうやら、19にもなって初恋中らしい。
仲間たちはそんな央弥の成長を面白く思ったり寂しく思ったりしつつも応援している…が、やはり半分以上は面白がっている。
「就職祝いしよって話だったのに、気持ちが焦っちゃって、変な話して、拗ねたりして、困らせた。嫌われたかも。もう会ってくれないかも」
事の顛末はさっぱり分からないが、とにかく年上の恋人とのデート中に子供のように拗ねてしまった事を悔やんで落ち込んでいるらしい。
「先週はずっとニコニコしてたのに、今度は地の底まで落ち込んで、なんか大変だな」
「央弥らしくないよな」
「…俺らしいって何」
「そもそも、誰かをまじで好きになれた事も意外だし」
「な、想像つかなかった」
「良い事じゃんね。年上なんだろ?多めにみてくれるよ」
「どんな人なわけ?」
「別に、普通」
あまり追及し過ぎると猫のような気まぐれさのある央弥は逃げ出してしまう。
友人たちは根掘り葉掘り聞き出したい気持ちを堪えてアドバイスに移ることにした。
「んで、何でそんなに落ち込んでるのかもう少し話せよ」
「…デート中にちょっと言い合いになって、無言で飯だけ食って無言で別れた」
「どっちが悪いわけ」
「んん…あっちには悪気は無かったけど、俺はすんげー傷ついて…それでも、俺は空気悪くしすぎたと思う」
央弥は身長が高く、ガタイも良い。
ムスッとした顔で押し黙られると、仲の良い友人でさえ話しかけるのを躊躇う迫力があるのだ。
「気まずそうに、目も合わせてくれなかった」
せっかくのお祝いのつもりだったのに、と思い出してはまた落ち込む。
「それで、連絡無視されてんの?」
「連絡してない」
「なんでだよ!」
「え、ヤバい?」
「そんな別れ方して、以来連絡が無かったりしたら…なあ?」
「俺なら、マジギレじゃんって思う」
「怖い」
「怖いよな。特に央弥だと」
口々に怖い怖いと言われて、自分が少し拗ねて黙り込むだけで周りに与える印象はそんなにも「怖い」のだと央弥は初めて知った。
「…お、俺っ、電話してくる!」
軽い口喧嘩、葛西さんも呆れてるだろうな…それくらいに思っていたが、もしかして…怖がられていたのか。
その夜、何度も何度もしつこく電話をかけて、半強制的に央弥はまた辰真をドライブに呼び出したのだが、車内はお通夜のように嫌な緊張感で静まり返っている。
「あの…葛西さん」
辰真は無言のまま窓の外を見ていて、そのせいで表情さえ窺えない。
央弥は何か言う勇気を失いそうになったが、恐らく怖がっているのは辰真の方なのだ。
手汗をズボンで拭ってからハンドルを握り直し、夜の街を当てどなく走りながら意を決してポツポツと話しはじめた。
「その…先に言っとくけど、俺…怒ってないから」
「…あぁ」
「怒ったんじゃなくて、ほんとに悲しくて、つい…大きい声出したし、黙り込んだりしちゃったけど」
「…」
「怖がらせるつもりなんか、なくて」
辰真は困惑していた。
正直、央弥が怒っていると思っていたからだ。
きちんと向き合って欲しいと言われていたのに、まだその気持ちの半分も理解していなかった事。向き合ったつもりでいて、まだ目を逸らしていた事。
我ながら非常に不誠実だったと反省している。
それなのに央弥は怒るどころか、怖がらせてごめんと謝りさえする。
「…謝るのは、俺の方だろ」
結局ちっとも向き合わずに、適当に誤魔化して。
央弥の気持ちに気付かない筈がないのに、知らないふりをして。
「ごめん」
謝罪の連絡さえせず、また逃げていたというのに。
「葛西さん」
ギッ、と抵抗を感じて車が路肩に留められたと分かった。
「その、あの…キス、してみてもいい?」
運転席から身を乗り出して、左手は助手席の背もたれに、右手は辰真の首筋に優しく触れる。
「…あぁ」
辰真はされるがままに顔を持ち上げ目を閉じた。
生温い他人の体温が唇越しに伝わって、ブル、と背筋に鳥肌が立つような感覚がする。
触れるだけのキスはあっけなく終わり、体を離した央弥からほんのりと甘めの香水のような香りが漂った。
「悪い…やっぱり、違ったのかも」
「…うん、わかった」
央弥は誤魔化しもせずに涙の浮かんだ目元を拭うと無言で車を発進させた。
迷走
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