アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
F-0130 ユウマ (2)にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
F-0130 ユウマ (2)
-
「・・・あれ・・・・・・。」
鼻をすする音が消えた代わりに安定した呼吸音が聞こえた。眠ってしまったユウマの顔を覗き込む。痛々しく赤く腫れた目の端を軽くなでると、まつ毛についていた涙が頬を伝って落ちていった。
シャツにしがみつく手を解き、その手を俺の首へ回して抱き上げる。パソコンと飲みかけの冷めたコーヒーを諦めて、ユウマだけを連れてリビングへ向かった。そのままベッドで寝かせておこうか迷ったが、その選択肢はすぐに消えた。
ユウマを抱いたままソファに座り、テレビをつける。特に面白くもないバラエティー番組を眺めながら目を覚ますのを気長に待つことにした。
ほんの三十分ほどでもぞもぞと動き、目を覚ました。今置かれている状況を瞬時に判断することができないのか、ユウマは俺の顔を見て固まった。
「・・・あ・・・っ・・・・・・。」
ここに連れてこられてからの記憶を思い出したのか、俺の膝の上から降りようと腰を浮かせた。
「降りる?」
「あ・・・はい・・・。」
自分の隣へ座るよう促すと、素直にその指示に従った。右足だけソファの上にのせ、ユウマのほうへ向くように座りなおすと、それに反応して体ごとこちらを向いた。
「大丈夫?」
「はい・・・あの・・・」
「俺はハルヤ。名前、教えてくれる?」
「・・・ユウマ、です。」
「ユウマね、よろしく。」
できるだけ優しく微笑んだつもりなのに、ビクッと肩を震わせて怯えさせてしまった。握手のために差し出した手はむなしくも、静かに下すことになってしまった。昼はユウマを抱いたままソファに座っていたため、ごはんを食べるタイミングを失っていた。そのため夕方になった今、少しの空腹感に襲われた。
「ねえ、お腹空かない?昼食べ損ねたから、俺腹減ったんだよね。」
ソファから立ち上がり軽く伸びをする。ユウマの視線に気づき振り向くと、不安げな顔を浮かべ俺の表情を伺うように眺めていた。ユウマの足元にしゃがみ、下から顔を覗き込むと何か言いたげに口を開いたが、我慢するように唇を噛んで、自ら行動を妨げた。
「どうしたの?」
「・・・っ・・・・・・。」
「言っていいよ。怒らないし、殴ったりもしない。」
「ぁ・・・な、なにをしたらいいですか・・・。」
「・・・・・・。」
「おれは、なにをしたら・・・いいんですかっ・・・。」
俺から視線を外さずに、ボロボロと涙を流す。近づくだけで震えて呼吸を乱していたユウマが、この短時間で目を合わせられるようになったことを内心でほめる。膝の上でギュッと握っている手の上に、包むように手を重ね、軽く握る。身を引くように体が動いたが、グッとこらえるのが分かった。
「ユウマは、二か月もしないうちに、他の人に引き取られる。君を引き取りたいって希望した人のところへ行くんだ。」
「それは、行きたくないって言ったら・・・?」
「残念だけど決める権利はない。ユウマにも、俺にも。」
今後の不安と恐怖、動揺で大きく瞳が揺れる。絶望に満ちた表情で目を見開いたまま、大粒の涙が頬を伝った。膝立ちになり、視線を合わせ両手で頬を包む。指で涙を拭うと、息を吐くように言葉を漏らした。
「おれが何をしたの・・・?」
「・・・・・・。」
「おれ、何か悪いことしたの・・・?」
「違うよ。」
「じゃあなんでっ・・・なんでおれは・・・生きてるの・・・。」
その瞬間、何かが吹っ切れたように声を上げて泣き始めた。とめどなく流れる涙は、俺の腕を伝い床に落ちる。それでも俺から目をそらすことはなく、答えを待つように視線を合わせ続ける。それを見ながら、大きく息を吸って、短く息を吐いた。
「ユウマ、ちょっと落ち着こう。ご飯食べるよ。」
「・・・っいりません。」
「そう。」
まあ、作るけど。内心そう思ったが口に出さず、台所に足を運んだ。消化されやすいように、温かいうどんを作る。お茶と一緒にお盆の上に置きダイニングへ行くと、ユウマが「なんで。」と小さくつぶやいた。
「おれっ・・・いらないって・・・っ。」
「食べれるだけでいいから。」
「ほんとに・・・いらないっ・・・。」
「どうして?変なものとか入れてたりしないよ。」
「・・・・・・!」
考えていたことが読まれたからなのか、顔をゆがめた。どうしても手を付けようとしないのを見て、少しだけ息を吐く。目の前にある自分の分のうどんに手を付けてから、ユウマに持ってきた分も一口食べ、安全なことを証明して見せた。ユウマは不安げな表情のままだが、素直にダイニングテーブルの前に座ってチビチビと口を付け始めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 94