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心配性にしおりをはさみました!
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心配性
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バイトから帰ると、いつもの塀の上からオトが飛び降りて、おれの方へ とことこと歩いてきた。
『おかえり、ミコト』
「ただいま。
なぁ、最近どこに出掛けてるんだ?」
『んー、ちょっと隣町まで』
隣町……
こたの家の方面。
「もしかして……野良猫が行方不明になってる、とか?」
おれの言葉に、オトは暗闇の中で光る目を丸くした。
『なんだ、知ってるの?
もうちょっと確証を得てから、話そうと思ってたのに』
「なにがあった?」
声を抑えて問うと、オトは横目でおれの顔をちらりと見た。
『……家に着いてから話すよ』
おれを座布団に座らせてから、オトは昼間のこたと似たような表情で話し出した。
「ミコトが言っていたとおり、野良猫が短期間で何匹も姿を消すっていう、とても不可解なことが起きてる」
「隣町だけで?」
「そう。
それも、若くて元気な子たちばかり」
「やっぱり、誰かが野良猫を捕まえてるってことなのか?
……猫狩りって、聞いたけど」
「……おれも、その線が強いと思う。
猫獲りの手口を知ってる?」
首を横に振る。
オトは指を一本ずつ立てながら教えてくれた。
まず初めに、猫を獲る地域に目星をつける。
獲る場所が決まれば、何日か掛けて下見をし、猫が集まるところに空き缶や雑誌などの目印になるものを置く。
そして、夜中に獲り箱を仕掛ける。
最後に、獲り箱に掛かった猫を袋に詰めるか、殺すかして車に積む。
「必要なものが毛皮なのか、身体なのかによって生かす殺すが分かれる。
後者の方がまだ救いはあるけど……」
「どっちなんだ?」
「分からない。
車に猫を積んでいるのを見たっていう野良と話をしたんだけど、生死は分からなかった。
それに、ひとの目がある外で、殺すとは考えにくい」
「……なぁ、これって警察に言った方がいいんじゃねぇの……?」
さすがにこんなこと、おれ達の手には負えない……
オトは疲れたようにため息をついて、かぶりを振った。
「駄目だよ、どんなに詳細な話をしても、証拠がないと警察は動かない。
それに、隣町で猫狩りを匂わせる回覧板が回されたらしいから、きっと既に誰かが通報してるはずだよ。
それでも駄目だったから、役場に訴えたんだろう」
「……なら、どうしたらいいんだ」
「……」
たまらず、オトの顔を見上げる。
オトは無言でおれの顔を見返してから、目を細めて微笑った。
「おれも、もうちょっと調べてみたいんだ。なにか分かったら教える。
それで、どうしても必要になったら、協力してほしい」
「……オトは平気なのか?
もし、お前が捕まったら……」
そうしたらおれは、本当に後悔してもし切れない……
「ミコト……なに泣きそうな顔してんの」
オトはしゃがんで、おれの頬を撫でた。
「おれが人間の罠に掛かるような馬鹿なら、今ここにいるはずがないでしょ。
目印に、赤い空き缶が使われてることはもう分かってるんだ。
今、隣町の猫達に、空き缶を見つけたらもうその場所には近寄らないようにって注意して回ってるんだよ」
「……」
「おれを信じてよ。ね?」
安心させるように微笑み掛けられて、おれはしぶしぶ頷く。
出来ればそんな危ないところに近付いてほしくないってのが本音だけど、猫達を助けるにはオトが動くしかないって、本当は分かってる。
おれは唇を噛むのを見られたくなくて、オトの胸に抱き付いた。
「意外と心配性なんだね、ミコトって」
「……」
「ね……顔上げて?」
優しく囁く声に誘われて、おれはオトに抱き付いたまま顔を上げる。
至近距離で目が合って、その直後には唇が重なっていた。
「……ん……っ」
ぞく……と、指先が痺れる。
お互いに舌を絡めながら、オトはおれの背中に直に触れ、背骨を指で辿った。
「はっ……オト……」
「ミコト、いつもよりいい匂いする。
おいしそー」
「……あっ、」
首筋に、オトの八重歯が食い込む。
そのまま皮膚を吸うもんだから、まともに痛い。
ったく、お前は吸血鬼かっつの。
「オト、それ痛いって……」
「ん……、なんか、久々にミコトの血からほしいなー」
「はぁ……?」
それじゃお前、本当に吸血鬼みたいな……
「ってそれ、マジで言ってる?」
「まじまじー
大丈夫、そんなに痛くないと思う」
「ちょ、嘘っ……いッ!!?」
がりっ、
て……すごい嫌な音したんですけど?
「オトお前っ……!」
「やっぱり、おれって変態かなー。
でもさ、嗜虐心って言うの?
愛おしい相手ほど、傷付けたくてたまらなくなるよね」
「っ……この……!!」
「いてっ!?」
ゴンッ、と重たい音。
おれのこぶしがヒットした頭を抱えて、オトは痛そうに呻いた。
「な、なにも思いっきり殴らなくたって……」
「おれだって痛かったんだから、仕返しだっ」
「うう、ごめんなさーい。
血止まるまで舐めてあげるから、許してよ」
「お前が舐めたいだけだろ?」
「まぁまぁ」
「まぁまぁって……あ、おいっ……」
鎖骨まで伝ってきた赤い雫を、オトの舌が掬い取る。
そのまま首筋までなぞり、唇で傷口を塞いだ。
「血なんか、美味くないだろ……」
「まぁ、味はいまいちかな。
初めてミコトの精気をもらったのが血からだったから、なんとなく、懐かしいような感じがする」
ああ、そういえば……
会ったばかりの頃は、必死にキスを拒んでたんだったな。
それで、痛いのを我慢して手のひらを裂いて……
あれは地味に辛かった。
「でも不便だよなぁ、体液を介さないと話せないって」
「まぁね。
話が出来ること自体奇跡みたいなものだから、そのくらいのハンデは必要なんじゃない?」
「そっか……」
人間に化ける猫。
その猫と一緒に暮らしていて、しかも、こんな関係になるなんて……
一年前のおれは、想像もしなかったろうな。
「なぁ、オト……」
「ん?」
「おれ達ってさ……恋人同士、なのかな」
オトは唇を手の甲で拭いながら、ちょっとだけ思案するように視線を斜めに向けた。
「……考えたことなかったな。
なんか別にそんなこと、どうでもいいっていうか、お互いに好きでいられるなら、わざわざ関係に名前をつける必要なんてないんじゃないの。
彼氏彼女とか、夫婦とか、そんなのは無理矢理繋ぎ止めるための枷でしょ」
そこのところは、どうなのか分かんないけど……
「じゃあ、おれは……お前を繋ぎ止めるための名前がほしい」
ぽつりと零すと、オトはおれの返答が意外だったのか、ぽかんと口を開けたまま黙り込んだ。
「……い、嫌ならいいけど」
急に恥ずかしくなって顔を俯ければ、頭の上でオトが息を飲み込むような音がした。
「嫌っていうか……そんなことしなくても、おれがミコトから離れられるはず、ないのに」
声が震えているのは、笑ってるからなのか。
それとも……
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