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日傘にしおりをはさみました!
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日傘
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昼休みを終えて、体育の時間になった。
ジャージに着替えて、ふと周りを見ると息吹の姿がない。
「なぁ、息吹は?」
同じくジャージに着替えている途中の陸に尋ねる。
「息吹は体育できないんだ。やっぱりあれだけ大御所だと家とか事務所とかうるさいみたいだよ。怪我したらダメだとか、日に焼けるとか、売れっ子は売れっ子でほんと大変だよね。」
「そんな...息吹はなんとも思ってないのかな。」
自分が同じ立場なら肩身が狭く感じてしまいそうだ。
周りと違うことをするのは想像以上にエネルギーがいることだし、ましてや体育の授業は普通に受けたいんじゃないだろうか。
「仕方ないって諦めてると思う。息吹、家も厳しいし、かわいそうだけどそういうのは慣れてると思うよ。」
ふと窓からグラウンドを見ると、日傘をさして体育教師について準備をしている小さな背中が見えた。
日に照らされた白い顔は、何年もかけて周りの大人たちに守られてきた美しさなのかもしれない。
なんとなくつまらなさそうに見える横顔は日傘に守られてぼんやりとしか見えない。
「あー、今日は持久走か、しんどいなぁ。」
教室では何人かが固まって着替えながらめんどくさそうに文句を言っている。
そのうちのひとりがふと不満そうに呟いた。
「サッカーとかなら楽しいけど、持久走はやだよなぁ。俺だって一応役者やってんだから休みてぇ...」
おい、やめとけよ。
誰かが小声で不満そうな声を遮った。
不満そうに呟いていた彼は、慌てて口をつぐんで、行こう、と何人かで部屋を出て行った。
こういうのは、見えないところで言われていれば気づかないというものでもないと思う。
周りから見て特別な自分と、周りと同じでいたい自分。
そのギャップが大きければ大きいほど、周りが感じる小さな不満に敏感になってしまう。
グラウンドで日傘をさしている息吹は、一切教室の方を見ない。
見ないようにしているのかもしれない。
同い年の人たちが活躍しているのは元気が出る。
心からそう言って笑っていた息吹を思い出すと、なんだか切ない気持ちになった。
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