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03 メガネくん -3にしおりをはさみました!
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03 メガネくん -3
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次に図書館に訪れたのは、1週間後の土曜日だった。
夏目漱石の『三四郎』をあっという間に読んでしまったので、次の本を借りにきたのだ。
時刻は午後1時を過ぎようかとしている。大体いつも夕方頃に図書館に来るのだが、今日は予定が入っていたので少し早めにここへ来た。昼飯もまだ食べてなかった。NOGIにはランチメニューもあるので、先に本を借りてから、昼飯がてらNOGIに居座ろうと思っていた。
さて、今日は何を借りようか。
書架に整然と並ぶ本の列を眺めながら、ゆっくりと歩みを進めた。
俺が主に立ち寄る書架は、日本十進分類法における9類の中の日本文学だ。江戸川乱歩や夏目漱石と言った、いわゆる文豪と呼ばれる小説家たちの近代小説はもちろん、村上春樹だとか、東野圭吾などの現代小説も手にする。
小説好きが功を奏してか、学生の頃の国語の成績はいつもトップだった。教師を志して現代文を選んだのも、自然な成り行きだったと思う。
そうやって、幼い頃から本に触れてきた。本は電子ではなく紙がいい。本の重さ、厚さ、紙のにおい、ページをめくる感覚なんていうのは、電子では味わえないからだ。
愛着が湧くのは、やはり馴染みのある紙の本だ。
俺はたまたま目に付いた本の背表紙を、そっと指先でなぞった。
「千坂さん?」
その時、小さな声で自分の名前を呼ばれた。この落ち着いた声は、聞き覚えがあった。声のした方に振り向くと、そこに立っていたのは、やはりメガネくんだった。俺だと確信すると、「やっぱり」と言ってこちらに向かってきた。てっきり土曜日はバイトが入っていると思っていたので、彼がここにいるのは予想外だった。
濃いインディゴブルーのデニムに白シャツ、黒のバックパック、スニーカーという大学生らしい身なりだった。細身のデニムが、彼の脚の長さをより強調させていた。ちなみに、今日彼がかけているのは丸メガネだ。
「あれ?今日バイトは?」
「今日は15時からなんです」
「それにしても随分早い出勤じゃない?」
「バイトの前に勉強しようと思って、早く来ちゃいました」
「なるほど」
大学生時代を思い出した。俺もよくこの図書館の学習スペースやNOGIで勉強したものだ。当時の俺と今の彼が重なって、懐かしくなった。
「実は朝からいるんですけど、そろそろ腹減ったんで飯でも食べに行こうとしてたんです」
そしたら、千坂さんを見つけました。
そう言いながら、メガネくんお得意のふわりとした柔らかい笑顔で、俺に笑いかけた。本日の綿菓子感も絶好調のようだ。
こうして向かい合っていると、改めてメガネくんとの身長差を感じてしまう。メガネくんの身長は知らないが、俺は今結構メガネくんのことを見上げている。身長にコンプレックスを抱いたことはないが、年下の大学生にこんな風に柔らかな笑顔で見下ろされているのだと思うと、少し居た堪れない心持ちになった。
「そうか」
「千坂さんは、これからNOGIですか?」
「うん。俺も昼飯まだだから、NOGIでランチでもしようかと...」
「え、千坂さんもお昼まだなんですかっ」
俺の声にやや被せ気味でそう言いながら、メガネくんは身を乗り出してきた。
「え...うん。まだだけ、ど....」
たじろぎながらもそう答えると、メガネくんはまたさらに1歩こちらに身を乗り出してきた。
メガネくんの、メガネの奥にある目が、キラッキラしていた。
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