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これは随分と心強い味方がいたもんだ。
千鶴はそれだけ伝えるとツツツと近付いて、興味津々に身を乗り出す。
「ねぇねぇ、今は二人で寝てるの?」
「最初は凄い怒られたけど、最近は平気かな。特に寒いの苦手だから、昨日は大丈夫だった」
「寝てる時は素直だからねぇ」
納得と言わんばかりの彼女の口調に、思わず笑みが溢れてしまう。
そこへ戻って来た鈴と奏がリビングのドアを開けて入ってきた。今まで話題にしていた人物が現れて、改めて鈴を見る二人。
「……何だ、人の顔見て」
「あっ、ううん、何でもないよ? ほら奏、行こっか」
訝しんで眉間にシワが寄ったのに気付いた千鶴は笑顔ではぐらかし、奏の手を取って先に出て行く。
そういう時はいつも何かを隠す時。
廊下に響いた玄関の閉まる音に溜め息を溢し、近付いてきたゼロにコートを投げる。
「千鶴に何も吹き込まれてないだろうな?」
珍しく気にした様子に、受け取ったコートに袖を通しながら悪戯に微笑む。
「鈴の事吹き込まれてたら?」
「……別に」
興味なさげに顔を反らし、背を向ける。本人は隠しているつもりだろうが、雰囲気でバレバレだ。
最初の頃よりも分かりやすくなった。
そんなに素直になるのは嫌なのか、と苦笑を浮かべつつ、腕を伸ばす。
「嘘だって。気になった?」
本当のことを言ったら怒られそうだから内緒。謝る代わりに背中越しに柔らかく抱き締めると、頭を軽く小突かれた。
「相手にするわけないだろ、バーカ」
千鶴の言った通りだ。初めに比べて、拒絶ではなくなっている。
少しずつ慣れてくれれば良い。
少しずつ俺を好きになってくれれば良い。
本人は可愛いのを嫌がってるけど、抑えきれない照れた顔は本当に可愛いんだ。“彼女”の時には見た事ない顔。
それを見れた時が一番幸せ。
「二人が待ってる」
「うん、もう少し」
「駄目だ」
いくら顔を見られていないとはいえ、抱き締めて髪に顔を埋められているのは恥ずかしくなってくる。遅いと二人も心配するからと伝えても、甘えた声で頬を擦り寄せるゼロの腕を掴んで離し、玄関へと足を進めた。後ろで拗ねるゼロに、無意識に笑みを浮かべる。
──犬みたいな奴
構われると嬉しそうで、離すと寂しそうに拗ねる態度は正に犬そのもの。耳と尻尾がついていたらと思うと可笑しくて、緩みそうになる頬を必死で抑える。
ゼロが靴を履き終えるのを待って一緒に外へ出れば、一歩違うだけで一面真っ白の別世界だった。
先に外へ出ていた千鶴と奏は、既に雪だるまを作る準備をしていて。玄関先にいる二人に気付いて手招きをすると、ゼロが小走りで近付く。
鈴はいつもの様に眺めていようと、三段程度の門の段差に座り込んだ。広い道路で思いきりはしゃぐ三人を微笑ましく眺めていたら
「……?」
隣からポサっと小さな音がして見上げた先に猫が来ていた。サクッと軽い足音を立てて飛び降り、こちらを見る猫に手を伸ばす。
「お前も寒いのか?」
ゆっくり指の背で喉を撫でると、甘えた声で擦り寄ってきた。温もりを欲しがる行動に、何となく親近感が湧いてしまう。
結局放っておけない鈴が猫と戯れる中、着々と雪だるまが出来上がっていき
「じゃあ頭を乗せて」
少し重い頭を持つ奏をゼロが手伝って一緒に乗せる。
「出来た出来た!」
千鶴が拍手すると、奏もつられて拍手をした。奏と同じぐらいの高さで作られた雪だるまは、顔も一応雪で形作って付けたのが中々可愛い。
「バケツ乗せようよ」
姉の提案に頷き、近くに置いたバケツを取りに行く二人の後ろ姿に笑みを溢し、玄関先にいるだろう鈴に声をかける。
「鈴、雪だるま出来た……って」
鈴の姿を見たゼロが、きょとんっと止まってしまった。確かにこれは不思議な光景だろう。
「……動けなくなった」
そう告げる鈴の膝には一匹の猫が丸くなり、コートの内側には仔猫が。よっぽど心地が良いのか眠っている。猫を起こさないように近付き、鈴の前でしゃがみ込んだ。
「可愛いな。親子?」
「さぁ。別々に来たからな……」
そう言って抱き締め、仔猫の頭を撫でる鈴が愛しくなる。
家族に向けられる瞳と同じく優しい。
抱き締めたい気持ちを家族の前だからと必死で抑え、鈴の頭から頬を撫でる。
「風邪ひくなよ」
「そこまで弱くない」
口調に甘さなどないものの、ゼロの手を退ける事もなく、大人しくしている鈴。
お願いだから『好き』と期待させないで欲しい。
試す行動を取っているのは俺なのに、何て自分勝手。
鈴は「我が儘だ」なんて言うだろう。
でも欲しくなるんだ。
手の届く距離になると。
考えれば考えるほど急かす気持ちに思考を止めて勢い良く立つと、下から不思議そうに見上げられた。首を傾げて様子を窺う鋭い鈴に笑みで誤魔化す。
「いつまでも座ってると冷えるぞ」
彼の膝で眠る猫の頭を撫でて抱き上げ、腕の中へ落ち着かせる。猫もまだ眠いのか、欠伸をしてから大人しく寝てしまった。
「散歩行こうぜ」
「は?」
突然の提案に驚く鈴の腕を掴む。立たせるために一匹引き受けたので、片腕だと不便だが。
「ぅあっ」
そのまま引っ張って立たせ、よろけた彼の手を取って繋ぐ。案の定、手は冷えきっていた。ゼロが繋いだ手を自分のコートのポケットに入れると、鈴も自然と近くなる。
「温かい?」
「……雪触ってたくせに」
「子供体温だからな」
覗き込んで微笑めば、呆れた顔が返ってきて。マフラーに隠された口許は分からないが、小さく手を握り返され、ゼロは上機嫌に足を踏み出した。
先程作った雪だるまの前にいる千鶴と奏がその二人に気付き、しゃがんだ体勢のまま顔だけ上げる。
「どっか行くの?」
「散歩行ってくるよ。鈴お借り」
「どぞどぞ」
「行ってらっしゃい」
「…行ってきます。冷える前に家に入れよ」
「「はーい」」
行儀良く返事をする二人に見送られて、ゼロに連れられるままに足を進めていく。何処に行くかなんて聞かない。目的もないのは瞳を見れば分かる。ただ本当に散歩をしてるだけ。
でも、不思議と嫌ではなく、むしろ落ち着く。以前なら思いもしなかったこと。
見慣れた道をお互い無言で暫く歩くと、行き着いた先は公園だった。丁度お昼時だから子供は家に帰っているのだろう。作りかけの雪だるまが目に入る。
「やっぱ雪だるまだよな」
同じ方向を向いて、そう言ったゼロの優しい微笑み。
どんな時も自分といる時は笑顔が多い。
──そう、いつだって……
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