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潮騒を聴きながら【N/A】にしおりをはさみました!
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潮騒を聴きながら【N/A】
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A組の海水浴の引率という謎時空です。
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セミの軽快な鳴き声と共に、強い日差しが照りつける。炎天下をこのヒーローコスチュームで佇むのは無理があった。酷く暑い。着替えようにも子供たちをそのままにしておく訳にも行かず、せめて直射日光から避けようと足を踏み出すと、鈍い音と共に日陰が現れた。
「いやぁ、暑いねぇ」
「……オールマイトさん」
どうやらパラソルを運んで来たらしい。アロハシャツに包まれた細い体で柔和に微笑むと、ビーチチェアを2つ並べて「さ、座って」とそれを叩いた。
「すみません」
大人しく座ると、嬉しそうにいっそう笑顔を浮かべる。
「なに、いいさ! それより着替えてきたらどうだい? それじゃ暑いだろ、君」
ちょうど言おうとしていたことを言われて、「そうします」とだけ答えてその場から立ち去った。
「すみません、任せ切りにしてしまって」
「みんな危険なことはしてないから大丈夫さ!」
「ならいいんですが」
「相澤くんの半袖は新鮮な気がするな」
「まあ、そうでしょうね」
ビーチチェアに腰かけ、オールマイトさんとは別の方向を見張っていると、視線を感じる。自分越しに何かを見ているのだろうと判断して、監視に意識を向けた。
「……」
喧騒が先程より遠くなる。1番騒いでいた連中がビーチから水中へ移動したようだ。視線は逸れない。
「……」
ビーチボールを跳ねさせながら楽しげに笑い会う声が届いてきた。やはり視線は逸れない。
「……あの」
「えっ!?」
見ていると気づかれていないとでも思っていたのか、俺が振り返るとオールマイトさんはビクリと肩を揺らした。
「何か俺の方の視界に気になるものでもありますか」
「ああいや、そういうわけじゃないんだ!」
「じゃあなんですか。さすがに長時間視線を感じると気になるんですが」
「そ、そうだよね」
煮え切らない様子の彼に向き直って物理的に距離を詰める。
「このままはぐらかされるのは合理的じゃない。俺に何か用ならさっさと言ってください」
「わ、わかった、わかったよ!」
両手を上げて降参したように少し大きな声を出すと、また少し言い淀んでから口を開いた。
「その、髪を結んでみたいなと……思って……」
「は?」
「いや! ちょっと思っただけなんだ! 頼むつもりはないよ!」
大仰に手と首を振りながら「ほら体格の問題で髪結んでなんて言われたことがないし」などとなんの根拠にもならないことを言う。ひとつため息を吐いて生徒たちへ目を向ける。遊びに夢中になってこちらへは何も気を止めていない。
「どうぞ」
「え?」
「さっさとしてくださいあいつらに見つかると面倒です」
持っていたゴムを突き出すと、「いいのかい!?」という言葉と共にわかりやすく顔が輝く。レジャーシートを地面に敷いて、ちょうど彼の足の間に座る。
「この方がやりやすいでしょう」
「なるほど、たしかに!」
感心したような声が後ろから聞こえる。
鼻歌混じりに髪を攫って、見様見真似であろう手櫛で後頭部の中心に集めていく。
ゴツゴツとした大きい手の感触と涼しい潮風が、心地良い、と感じた。
ふと、「できた!」と声が上がる。いつの間にか閉じていた瞼をあげると、横からオールマイトさんが覗き込んできた。
「結構時間かかっちゃったな、ごめんよ相澤くん」
「いえ。満足しましたか」
「ああ、とても! この姿だと細かいことができていいなぁ!」
達成感のある声で笑ったのを確認すると、その場から立ち上がる。正直まとめきれずに落ちたり結わえた部分が中心からそれていたりもするが、まあ、初めてにしてはいいだろう。
「本当にありがとう! はずしてもいいんだぜ?」
「……あー……いえ。丁度暑かったので」
レジャーシートを片付けようと屈む。すると、視界に彼の手が映った。
「あれ、ここ結べてなかったんだ」
零れた髪をすくい上げて、耳にかけられる。驚いてあげた目が合った。ニコニコと、笑っている。払いそうになった手をレジャーシートを掴むことで抑えて、目を伏せたまま立ち上がった。
「纏まってればいいんですよ」
「そうか、ならよかった」
穏やかな風が吹く。暖かい空気だが、直に冷たくなるだろう。なんの根拠もないが、オールマイトさんに触れられた場所は涼しく感じられた。
「……潮騒が聞こえて来ましたね。切り上げましょうか」
「ああ、ほんとだ。なんだか穏やかだったね。じゃあ私は荷物片付けておくから」
「お願いします。俺は子供たちに声掛けてきます」
「うん、よろしくね」
◇ ◆ ◇
「あれ? 相澤先生今日なんか髪ぼさぼさやね」
「あ、ほんとだ。纏める時は結構しっかりまとめてるのに」
麗日と耳郎の呟きが耳に入る。まあ、確かに下手だが。
そんなに人知れずビクつかれてもこのままでいいと思ったのは俺だ。
ただ、パーソナルスペースの狭さに少し腹が立ったので、嫌がらせにこのままにしておこう。
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