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18歳以上ですか?
4.望みにしおりをはさみました!
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4.望み
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「…シャワー出たぞ。雨依」
しばらくすると腰にタオルを巻いた遥が浴室から出てきました。
「遥、」
「お前も入ったらどうだ。塩水に浸かって、体も気持ち悪いだろう」
「遥、髪がまだ濡れています。」
遥の肩にかかったタオルを手に取り、遥の濡れた黒髪に触れようとするとパシ、と手を振り払われタオルを奪われました。
「こういうこと、俺にしてくるな。」
遥に鋭い目付きで睨まれ、そう言われました。
「……」
「……。」
僕もあれからシャワーを浴び、その後はいつも家にいる時と変わらない過ごし方で、遥とソファに並んで座ってテレビを見ています。
遥は、先程から一向に何も話してきません。時計の針は夜の8時過ぎを指しています。
「遥」
「…なんだ?」
「僕は遥に何か気に障ることをしましたか?」
「…」
「もしそうなら、詳しく説明をしてほしいです。申し訳ありません、僕が頭足らずなせいで遥をこのように不快にさせて…」
「違うよ。」
違う?
隣に座る遥は自らの顔を手の平で覆って、唇を噛んでいます。
「ごめん……雨依。お前は何も悪くないのに」
顔から手を離した遥の顔は悲しげで苦しそうです。
「何故遥が謝るのですか?」
「…。ごめん。俺が、まだまだこの歳でも子どもだから」
「…」
「だからまだ14のお前に変な行動取らせてるんだよな。俺がもっと、もっと親らしく、きちんと出来ていれば…」
遥は自分自身について強い悔しさを感じているようです。遥の右手の拳が強く握られています。
「遥、僕はそんなこと気にしていません」
「いいや、俺は所詮お前の本当の親ではないから…。俺だって本当はまだ何も分かっていない未熟な大人なんだ」
(未熟な大人。)
「…遥は、僕のことを9歳の時に拾ったと言っていましたね。」
「…あ、ああ。そうだけど」
「9歳というまだ自分が子どもである時に赤子を拾う、育てるという行為は生半可な気持ちで誰でも出来ることではありません。ましてや見ず知らずの僕を、遥は今日の今日まで育てとても大事にしてくれていました。」
「…そんな大袈裟な。それにお前だって今まだ14歳だろう。それなのになんだよ、その14歳とは到底思えない大人び過ぎた発言は」
遥は僕を見て眉を寄せています。
「僕は、おかしいですか?」
じっと遥を見返しながらそう尋ねると遥はハッとするように目を開き瞳を泳がせました。
「そ、そうは言ってないけど…」
「遥が未熟だからとして一体何が駄目というのでしょうか?」
「え…?」
「僕はどんな遥も受け入れます。それに遥は僕には未熟とは思えません。いつも遥はしっかりしています。でも僕はもっと、遥に力を抜いて欲しいのです。」
遥の右手を握りながら遥の驚く顔を見つめながら僕は言葉を続けます。
「僕の行動が遥を不快にさせたのだとしたら申し訳ありません。ですがあのような行動を取ったのは、遥に不十分な要素があったからではありません。ただ僕が遥に何かしたかったからです。」
「…雨依…」
「……これでは、納得のいく理由にはなりませんか?」
遥はじわりと瞳に涙をためたように見えました。
「だ、ダメだっつの」
顔を背けながら遥は言います。
「俺は、親なんだから、雨依の手の力を借りるわけにはいかない、1度でも寄りかかったら俺は多分」
(駄目になってしまう。何となく遥の言いかけた言葉の続きが僕には読めてしまいました。ですが、だから何が悪いというのでしょうか。僕はいつだって遥に、気を休めてほしいです。僕が支えてあげたいのです、遥を。ただ、幸せそうにずっと、笑っていて欲しいのです、遥に…)
「遥…」
向こう側に向いた遥の顔はきっと泣いている。そう思い遥の顔に向かって手を伸ばした時、こちらにぱっと笑顔を浮かべた遥が振り向きました。
「なんかごめん。せっかくお前への誕生日プレゼントなんだから、もっと仲良く楽しもうか。」
笑う遥の目元には薄ら涙がまだあることを隠しきれていません。しかしここは気づいてはいけないところなのでしょう。僕は貴方を今すぐ抱き締めてあげたいですが、遥はそれを望んでいません。僕が今遥に出来ることは、同じように笑ってはい、と頷くことだけです。
いつか、遥の苦しみや悲しみを僕が全て払拭させてあげたいです。ならば今僕は遥にできることを。
「おやすみなさい遥」
「…雨依なんでこんなに広いベッドなのにこんなに近い距離に寝転がってるんだよ、つか隣にもう1つベッドあるだろッ」
「これは僕への誕生日プレゼントなのでは?今日くらい駄目ですか?遥」
「…ぐ」
「ありがとうございます遥」
「!だ、だからっ!俺はお前の親なんだからっっそんなにくっつくなって…言って…っ」
正直な話をすると、僕には遥が親に見えたことはひとつもありません。ですが遥にとって僕はまだ子どものままでいて欲しい様子。ならば僕はその遥の望みを今しばらくは受け入れることとしましょう。
「…すう…」
「……でかい子どもだぜまったく……」
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