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18歳以上ですか?
19にしおりをはさみました!
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19
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口の中も、鼻の奥も、鉄の匂いがした。
構内のトイレの手洗い場で顔を洗って、口をゆすいだけれど、
タオルなんて持ってはいなかったからTシャツの裾を引っ張って拭った。
いくら洗ってもゆすいでも、口の中が切れているし、多分、鼻の中も傷ついているせいで血生臭さは全然消えなかった。
その後、どこをどう歩いたのか、あまり覚えていない。
ただ、すれ違う人が皆、俺を振り返って二度見していたのだけは分かる。
歩きながら、
真木が言ったセリフを、ずっと反芻していた。
〝ゴミクズ〟。
クズからゴミクズにグレードアップしたのか、俺は。
ならもう、どこまで駄目になれるのか逆に試してみてもいい気がきてくる。
飲みたい。
飲んで、セックスしたい。
ドーピングすれば、その間くらいは楽でいられる。
もうどうでもいい気がした。
元から自分に何か価値があるなんて思った事は無かったけど、人扱いすらされてないなんて、笑いすら込み上げてくる。
「…どっちもどっちだな」
思わずそう呟いた。
うつむいて歩いていたら、ふと、
〝川島〟
そう呼ばれた様な気がした。
何だ、俺、
頭打って幻聴でも聞こえ始めたのかな
もう本当におかしくなったのか。
そう思った瞬間、後ろから腕を掴まれた。
「川島、」
聞き覚えのある声に、
確かにそう呼ばれて振り向くと、見知った姿がそこにあった。
なんでこの人は、弱っている時に見計らった様に目の前に現れるんだろう。
「……やっぱり川島…って、うわっ、…お前…何だその顔…?!」
浅科さんは、俺の顔と服を見るなり心底驚いた顔をした。
そりゃあそうだ。顔は腫れて口元は切れてるし、服は血だらけ。誰でも二度見するくらいには驚く。
「服も酷いし…ケンカでもしたのか?」
黙っている俺を、心配そうに見下ろしている。
「家に消毒薬とかあるか?」
そう聞かれて考えていると、俺が答えるより早く浅科さんに、〝近くだから家に来い〟と言われて、
首を横に振った。
大丈夫、と言って断る俺の腕を、浅科さんは、決して離してはくれなかった。
引っ張っられる様にして連れて来られたその部屋は、すっきりと片付いていて、住人の性格を表している様だった。
マンションの5階の、多分、2LDK。
玄関のドアを開けると、浅科さんと同じ匂いがする気がした。
本当のところは、鉄の匂いしかしなくて分からなかったけれど。
その奥のドアを開けると、割と広いリビングに、キッチンスペース。
ソファやテーブル、テレビ、キャビネット、それぞれが上手く馴染んでいて、良い意味で生活感を感じた
そこに、誰かと一緒に住んでいる気配は感じられなかった。
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