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01 恵まれないにしおりをはさみました!
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01 恵まれない
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紅葉の葉がゆらりはらりと落ちゆくころ。
ひとりの美麗な男は紅茶を嗜み、夕焼け空を眺める。
薬指にはめられた高い指輪は、淡い光に美しく輝くでもなく…ただいつもと同じ様に定位置に居座るだけ。
まるでこの先を助長…しているかの様にも思えてしまう。
なんて、ぞっとしない話だな。
「…」
窓の額縁に寄りかかり、物想いにふけこんでいるとドアの外からコンコンとノック音。
「入って。」
そう声をかければゆっくりドアが開き上品な所作で失礼します、と声をかけ部屋に入る。
黒髪、黒いスーツを纏った…一級品の執事。
「ふふ、お美しいですね…藍様と夕焼けがとてもマッチしていて絵画の様です」
西園寺 藍、それがこの執事の主であり、
西園寺家の三男。
家を任される事も無い、唯の財力に長けた男でしか無い。
執事はゆっくり歩み寄る。
近くに来た蓮を見上げ、藍は憂いた表情で笑う。
「…僕なんかの執事なんて。
親が居なければ唯の凡人なのにね。」
兄の方に付ければもっとやりがいがあった事だろう。
僕の世話をしたところで、なんの価値も生まれないのだからと藍は心の中で悔やむ。
藍には2人兄がおり、その2人は優秀でお互い力を貸し合い西園寺家を支えるという夢に向かって精進している。
…が、その2人の未来に藍はいない。
能無しの、木偶の坊…それはずっと幼い頃から言われ続けてきた言葉の枷だった。
「…私は、天才のお2人より貴方の様な努力家の方が好きですね。天才の方も花形で麗しいですが、人より多くのことを学び、積んできた力そのものに…魅力を感じてしまいます」
蓮の口が三日月の形に変わる。
「変わってるよ。僕の事そんな過信するなんて。」
呆れた表情と、ため息混じりの言葉。
「過信…ではなく、真実です。私は貴方の執事…嘘などつきませんよ」
それを包み込む様な言葉と完璧な執事の顔を見るなり、蓮の頬に触れ、頬をそっと撫でた後に思い切り頬をつねる。
「…っ!、…何でしょう、藍様」
一瞬驚きに顔が崩れればやっと藍は表情を緩めた。
「執事の仮面を付けたままのお前は完璧過ぎて全て社交辞令に聞こえる。胡散臭い」
「酷い言いようですね。」
「よく言う…僕の身体に噛みつく悪い駄犬の癖に」
蓮を見つめ、首筋に残る赤い痣をなぞりながら艶っぽく微笑みかける。
「っ、」
冷め切ったまずい紅茶をゆっくり飲み、ティーカップを渡す。
意味する事は分かるね?と言う様に首をことりと傾けて。
「悪いお人ですね。」
「お互い様…でしょ?」
舌舐めずりを見せつけられる蓮。
いつも通りに洗い物を済ませに部屋を立ち去る。
「水が冷たい時期が来てしまいましたね…
参ったものです」
誰もいないキッチンで、ひとりそんなことを呟いた。
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