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18歳以上ですか?
16にしおりをはさみました!
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16
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ぐっと腕を引かれ前のめりになりながら立ち上がる。
背中は冷や汗でぐしょぐしょ
手は僅かに震えていた。
「行くぞ」
「え、あ、ちょっウミ!」
半ば引きづられるように歩き出す。
ハッとしてナノカちゃんの方を見るととても驚いた顔をしていて俺と目が合っていることに気づくと口を小さく開いて
「またね、楢崎くん」
深々と俺たちの方に向かってお辞儀をし、くるりと踵を返して駅の方へと歩いて行った。
駅前の賑やかな通りを抜けて
街灯が少なくなった住宅街へ
見慣れた道なのに夜はやっぱり知らない場所みたいに静まり返っていて心臓が嫌に早く動き出す。
「うみ、ウミ!待てって」
「なに」
「何って…」
足を止めることなく前を向いたまま声だけで返事をするウミに困惑を抱くと同時に恐怖心も生まれる。
「っ」
俺の手首を掴む手
大きくてゴツゴツしていて
ちゃんとウミだってわかってる。
けれど、暗くて本当にそうなのかと頭が混乱しだす。
本当に馬鹿げた話だ。
ウミが、怖い、なんて
「融?」
何で気づくんだよ。
俺の様子に気づいたウミの足が止まる。
呼吸がうまくできなくて、でも知られたくなくて
無理に落ち着かせようと息を止めると今度は本当に呼吸ができなくなる。
「っ、は、は…」
「融」
「ふっ、ぅう、っく」
「平気だから、ちゃんと息吸え」
道の端に寄って、首元を押さえる。
やっぱり呼吸はうまくできない。
苦しさで視界は滲んでぐらぐら揺れる。
ウミは慣れたように俺の背中をさすりながら
大丈夫と俺に言い聞かせる。
「ゆっくりでいい、俺の呼吸に合わせて」
「っ」
ふるふると首を横に振るう。
どうしてかうまくできない。
「吸って、吐いて、そう。」
「うぅ、っ、は」
ゆっくりウミの呼吸に合わせて息をすると
下手くそだったそれは次第にいつも通りのものへ戻っていく。
軽く咳き込みながら額の汗を拭う。
「ウミ、ごめ…え?」
「あんま、心配させんな」
気づいたらウミの腕の中にいた。
どうやら俺は今ウミに抱きしめられているらしい。
どくどくどくどく俺の胸元で忙しなく動く心臓
けれどそれは俺のものではなかった。
「ウミ、も、平気」
「わかってる」
ぎゅうっといっそう強く抱きしめられる。
肩に埋まるウミの頭
長く重いため息が首にかかってくすぐったさを覚えた。
「さっき、怖かった」
「…悪い」
「ははっ、ウミのせいじゃねーっての」
「……悪い」
誰が悪いとかそういう話ではないけれど
俺のことを昔から知っている分ウミはやっぱり申し訳なさそうな声を出した。
それが珍しくて俺はつい声を出して笑ってしまった。
今しかない、とわしゃわしゃとウミの髪を乱雑に撫でる。
柔いウミの髪はさらりと指を通り抜ける。
トラウマ、というほどのことではないけれど
誰にでも踏み込まれたくないことはあると思う。
俺にとってそれには条件があって
その条件が重なってしまうと時々ああやって過呼吸になってしまったりする。
ウミがいてくれるだけで安心するのも本当
けれどダメな時だってある。
夜は出歩かないようにしているのだが
今回のは俺が勝手に拗ねて意地を張ってこうなってしまったから少しは反省しようと思う。
「ウミ、迎えに来てくれてありがとう。帰ろ」
「ん」
暗い夜空は俺たちをいつもより少し子供にする。
だから俺たちは約束した。
夜が怖くないように
安心して眠れるように
二人だけの秘密の約束を作って
ずっと二人でそれを守っている。
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