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視線を無視して寝たふりをしてる間に、いつの間にかマジで寝ちまったらしい。気が付いたら朝だった。
横で寝てたハズのハマーはいなくて、貸してやった毛布だけが、きちんとたたんで置かれてた。
「おは、よう、アル君……」
ミーハが目をこすりながら起きだして来た頃、ようやくハマーが帰って来た。
「たっだいま~っ!」
陽気に家に入ってきた彼は、両手に焼き立てのパンと、それから呪文書を抱えてる。
「ミーハにプレゼント~!」
そう言って、寝ぼけ眼のミーハに呪文書を手渡し、ハマーはパンを食卓に置いた。
「え? うお……」
ミーハは咄嗟に礼も言えず、目を白黒させてキョドった。
まあ、そりゃビックリするよな。だって、何も聞いてねーし。起き抜けにいきなりだし。
プレゼントくれるってのに文句を言うべきじゃねーんだろうけど、時と場合を考えろって感じだ。年上なんだし!
「……何貰ったんだ?」
渋い顔で手元を覗くと、昨日言ってた『研磨』みてーだ。
「え~。だってその魔法使えば、オレのコトとか思い出すかも知れないなーと思って」
ハマーがへらへら笑いながら、照れたように言った。
「なっ……!」
それが狙いか! 呆れると同時に、感謝よりもムカつきの方が強くなる。
つーか……そこまでして、ミーハに自分のこと、思い出して欲しーのか? なんで?
ホントにただの幼馴染なんだろうな?
「ほらミーハ。先にパン食えよ。メシ食って、それからじっくり呪文書読んで、そんで魔法を見せてくれよ。昔みたいに」
昔みたいに。
ハマーのセリフは毒みてーだ。ほんの少しの言葉が、オレ達の日常をかき乱す。
ミーハの記憶は戻って欲しい。その気持ちに変わりはねーけど、こんな形じゃ御免だ。こんな……作為的なやり方はイヤだ。
「うんっ、ハマー君っ」
ミーハが素直に従ってんのにも、それからヤツに、少しずつ警戒を解いてってるようなのも気にいらねぇ。
このミーハは、「前のミーハ」じゃねぇ。つまり、「ハマーの幼馴染」でもねぇっつーのに。
もう……ミーハの前から、消え去ってって欲しいのに。
オレは、ミーハが呪文書を読んでる間、ハマーと話すんのもイヤで、昨日拾った銀青の石を弄び続けた。
オレの手持ちの原石は、例の銀青のが1つ。それから、ミーハを拾う前に河原で拾ったルビーらしきものが4つ。
「ジュエル!」
ミーハが覚えたての呪文を唱え、杖の先をコツンと当てると、銀青の石はぴかっと小さく光って、一瞬でサファイアに変わった。
一回り小さいけど、まだまだ十分に大粒だ。
小さな白と紅の石も、ルビーになった。いや、磨かれたっつーべきか。
スゲー魔法だ。便利だ。けど――。
「……思い出し、た」
ミーハのそのセリフは、今日ばかりは聞きたくなかった。
「か、川の近く。よく増水する土地、で、畑とかダメ、で――」
家が川の近くだったから、よく石を拾いに行ったんだ、と、ミーハは懐かしそうに言った。
下流域には宝石なんかそうそう転がってねぇ。
だからミーハが『研磨』したのは、主に瑪瑙とか虎目石、たまに水晶があるくらいで。貧乏で――。
「マーちゃん、だよね?」
ハマーのことをスゲー親しげにそう呼んで、ミーハはにへっと笑った。
ムカついた。
そっから2人して、昔話に熱中してた。
ミーハの記憶はやっぱ断片的だったけど、ハマーが上手に誘導して、そこから少しずつ思い出してる。
スポットライトに照らされた部分から、じわじわとその周りまで無理矢理明るくしてってる感じ。
「土手から、河原に下りてく小道があっただろ?」
「あ……草むら、の……?」
「そうそう、そっから河原の反対方向に下りてくと、スゲー急な坂道がある」
そんな感じで、ハマーは根気よく、昔のことをミーハに思い出さそうとしてた。
ミーハも、思い出そうと頑張ってた。
頑張ってるアイツは好きだ。健気だし、可愛い。けど、見てらんなかった。
オレの元から、積極的に去ろうとしてるように見える。
記憶は戻してやりてーと思う。
でもやっぱ、こんなのはイヤだ。
記憶が全部戻った時、ミーハはそれでも、オレの側にいてくれんのか……?
坂道がどうとか、村の入り口がどうとか。オレに分かんねぇ話を聞くのがイヤで、オレは黙って外に出た。
ずんずんと市の立ってる方に向かって歩きながら、そういや馬のメシを買わなきゃなんねーのを思い出す。
ハマーに買って貰った馬。ありがたかったけど、今はスゲー複雑だ。
飼い葉桶とか干し草、それに馬の手入れ用グッズなんかを買い揃えたら、そんだけで昨日のハマーの依頼料、金貨2枚が吹き飛んだ。
複雑だ。別に損はしてねーし、つーかむしろ、得してんだろうけど。ミーハだって、呪文書2つも手に入れたし……。
……と、考えて、『転送』のことを思い出した。
村のこと思い出したんなら、ハマーを『転送』してやればいい。まだまだ山盛りの金貨と一緒に。
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