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68 いつかの3人編にしおりをはさみました!
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68 いつかの3人編
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ひとまずボスは退けたものの、いつまた戻ってくるか分かんねぇ。さすがにヘトヘトだったけど、のんびり休憩してる場合でもねーから、取り敢えず王都に戻ることになった。
「お二方もそれでよろしいでしょうか?」
オレとタオにそう訊いたのは、魔法使いのリーダー格の男だ。
多分、オレらが討伐したもう1匹のボスコングのことを気にしてるんだろう。あのまま放置してくのは、やっぱちょっと惜しいもんな。
けど、もう1匹ボスがいんのも分かってるから、こんだけの少人数であそこまで戻んのは無茶だろう。
馬だって放って置けねーし、モンスターの素材を惜しんでミーハを危険に晒したくねぇ。
「まあ、仕方ねーな」
タオと顔を見合わせて、撤退を了承するしかなかった。
王都への帰還方法は、勿論魔法だ。けど、その魔法の使わせ方が問題だった。
「さあ、ジュニア様。『転移』を」
魔法使いたちに促され、ミーハが不安そうに前に出る。
周りに散らばる死骸の山と、オレらと馬と、魔法使いたちと。不安げにキョドキョド視線を移しながら、薄い唇を開いて――何も言わねぇまま、首を横に振ってうつむいた。
「できませんか」
はあ、とため息をつきながらの言葉に、ムカッとする。
「ご、ごめっ……っ」
うつむいたまま、声を震わせて謝るミーハに胸が痛む。
確か、以前もそうやってスパルタで、どっかに放置されたとか言ってなかったか? 教育方針、まったく変わってねーんだな!?
大事にされてるようで、されてねぇ。甘やかすばっかじゃダメかも知んねーけど、あんまりだと思った。
頭ごなしに叱られたり、怒鳴られたり殴られたり、そういうんじゃなさそうだけど、失望したようにため息をつかれんのもダメージはデカいだろう。
記憶が戻っても戻らなくても、やっぱ「転移」は使えねーんだな。
オレと暮らしてた時、泣きながら「転移」できねぇって言ってた姿を思い出す。
オレのことも、あの家のことも忘れちまったんなら、「帰宅」も使えねーんだろうか? 「転送」は?
自信なさげにうつむく姿を見てると、やっぱ胸が痛むし、力になってやりたくなる。
まだ16歳かそこらなのに、200以上も魔法覚えて。頑張ってんの、知ってる。たかが転移系魔法の1つや2つ、使えなくたっていい。
オレら剣士に魔法のことなんか分かりはしねーし、大した助言もできねーけど……でも、見て見ぬフリはできなかった。
「なあ、ミーハ。『転送』なら使えんじゃねぇ?」
ニヤッと笑いかけながら、うつむくミーハにさり気に近寄る。
フードを被った頭がふるふる横に振られたけど、「できる」のは分かってるし、ちょっとムカついたし、遠慮はしねぇ。
「なあ、アイツらみんな王都に送り返しちまおーぜ。邪魔だろ?」
こそりと耳元で囁き、そそのかすと、ミーハは細い肩をびくっと跳ねさせた。
「じゃ……う、え?」
デカい目にまっすぐ見つめ返され、愛おしさが沸き上がる。
抱き締めたくなんのを無理やりこらえ、その耳に更に囁く。
「どーせみんな、お目付け役なんだろ? 嫌味しか言わねぇヤツらは、追い返しちまえ。お前ならやれるよ」
恋人だった記憶を失くしちまったコイツに、オレの言葉がどんだけ響くかは分かんねぇ。
どんだけ安心を与えてやれるかも分かんねぇ。
けど、この先いつ会えるかも分かんねぇ状態だっつーのに、ミーハを自信失くしたまま放置したくなかった。
「転送」も「帰宅」も、ちゃんと使えてたのを知ってる。泣いてたけど、使えたのを覚えてる。
だから。
「やれ、ミーハ。『転送』だ」
ローブを着込んだ細い背中を、バンと叩いて押し出した。
「とっ、トランスファ!」
杖を掲げて、ミーハが高く呪文を唱える。目前の魔法使いたちを、瞬時にパァッと包む白光。
「ちょっ……」
「ジュニア様っ……」
魔法使いたちが慌てたように杖を上げたけど、どうやら魔法を打ち消すことはできなかったようで――シュッ、と小さな音とともに、魔法使いたちがオレらの目の前から消え去った。
あんだけ大量にあった、ウッディコングどもの死骸も一緒に消えたのは、ご愛敬だろうか。ミーハが「邪魔だ」って思ったからなんかな?
取り敢えず、タオもタオの馬もハマー(馬)もちゃんと無事にここに残ってて、ホッとする。
「スゲー! 相変わらずミーハの魔法はスゲーなぁ」
タオがニカッと笑い、ミーハとオレとにぐっと親指を突き出した。
ミーハは魔法の余韻か、まだちょっとぼうっとしてたけど、成功したことに変わりはねぇ。
「ワリーな、ヤツらに『転移』で送って貰えりゃ楽だっただろーけどさ」
ハマー(馬)の手綱を引きながら謝ると、タオも「いいって」って肩を竦めた。
「だーって、オレもちょっとムカついたもんな」
「だよなー」
「フォローがねーとな」
ミーハの様子をうかがいつつ、タオと2人で互いに愚痴をこぼし合う。魔法使いたちのミーハへの態度に、ムカついてたのがオレだけじゃなくてよかった。
一方のミーハは、まだぼうっとしてるみてーだ。
「転送」が使えた達成感とか、ちょっとは味わってくれてんだろうか? それとも、連中のことを心配してる?
けど、あんまゆっくり話を聞いてもいらんねぇ。
ウッディコングボスがいつ復活するか分かんねーし、残党のザコ猿どもだって、大人しく撤退したままとも限らねぇ。ボスだって、残り1頭だとも限らねぇ。
再び襲撃される前に、さっさと移動すべきなのは明らかだった。
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