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73にしおりをはさみました!
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オレとタオが王都を目指して旅をした時は、旅費を稼ぎながらだったから2週間以上かかった。
今回は、オレらもハマー(人間)も財布に余裕があったから、いちいち停留して金を稼ぐ必要はねぇ。ただ、3人じゃやっぱ野宿は不安だったから、必ず宿に泊まることにして、かかったのは10日。
10日目に砂漠が見えた時には、正直ようやく着いたかと思った。
街道沿いにまで出てくるモンスターはそう多くねーけど、やっぱ皆無って訳じゃねぇ。オレとタオだけの旅路とは違い、ハマー(人間)を守んなきゃいけねーし。思ったより緊張の連続だった。
以前はミーハのこと思い出して辛くて、砂漠を直視もできなかったけど、今は不思議と平気だ。
「やっと砂漠か」
ハマー(馬)の手綱を握りながら、やれやれと背筋を伸ばす。
この辺りまで来ると、オレらの地元はすぐそこで、ようやく一息つけそうな気がした。
「油断すんなよ」
「分かってるって」
タオの注意に、素直にうなずく。
ハマー(人間)の依頼は、砂漠の街とオアシス周辺への護衛だし。砂漠に着いたからって、終わりにはならねぇ。
砂漠で注意しなきゃいけねーのは、モンスターよりもまずサソリだ。デザートライオンとかデザートワームとか、砂漠特有のモンスターは厄介だけど、街道周辺には出て来ねぇ。
けどサソリはどこにでも出るし、砂に埋もれるし、小さい分気配もなくて、そのくせ猛毒を持ってたりするからタチ悪ぃ。
唐揚げは案外美味かったけど……。
そう思うと、同時にミーハとの別れもよみがえって来て、ズキッと胸が痛む。
またあの温もりを取り戻してぇのは確かだ。けど、オレを知らねぇミーハとの会話はやっぱ辛くて――。
ハマー(人間)の依頼にかこつけ、王都を撤退したのは、情けねぇ逃げなのかも知れなかった。
久し振りに訪れた砂漠の街は、相変わらず暑くて乾燥して賑やかだった。ひとまず宿の手配をし、荷馬車と馬や荷物を預け、3人でメシを食いに出かける。
この街で食うモノっつったら、やっぱサソリの唐揚げだろう。
「ハマー(人間)もサソリ食うよな?」
「ええっ、イヤ、オレはちょっと……」
顔を引きつらせながら遠慮したがってたハマー(人間)だが、食わず嫌いはよくねーだろう。
「いーから来いって」
タオと2人、ニヤッと笑いながらハマー(人間)の腕を掴み、懐かしい細い路地を行く。この店に来たのは1ヶ月以上ぶりだったけど、すぐに店は見付かって、相変わらずのニオイを嗅いだ。
そういや、今度はミーハとまた一緒に……って思ってたんだっけ。
店に入るなりあれこれ思い出したけど、残念ながら今日の連れはタオとハマー(人間)だ。
「サソリの唐揚げ3人前」
ざわざわと賑やかな店内、声を張り上げて注文し、空いてるテーブルにドカッと座る。
「普通のメニューもあるじゃん~」
ハマー(人間)が情けねぇ声で喚いてたけど、軽く無視して店内をゆっくり見回した。
前に着た時、直視できなかった2階への階段。
ミーハの思い出をなぞらされ、ふっと口元に苦笑が浮かぶ。けど、前みてーに辛いと思えねーのは、わずかな時間でも顔を見れたからか?
「はいよー、3人前お待ちー」
威勢のいい声と共に、運ばれてくる唐揚げの大皿。それに「おおー」と歓声を上げつつ、競うように手を伸ばす。
ハマー(人間)は若干引き気味だったけど、1個食べ終える頃には、「美味い」としか言わなくなった。
メシ食った後は、タオと2人して街を歩き回るハマー(人間)に付き合った。オレらは雇われた護衛だし、ここはそんな治安悪ぃ街じゃねーけど、用心して損はねぇ。
何がどんな値段で売られてんのか、まずは市場調査が大事らしい。
「サソリのビン詰、どこが安いかねぇ」
そんなことを呟きながら、キョロキョロと周りを見回すハマー(人間)に付き添う。
「サソリの素揚げは?」
「あれは玄人向け過ぎでしょー」
わいわいと喋りながら、日暮れの街をそぞろ歩くのは案外楽しい。王都みてーな人混みはねーけど、それなりに賑やかだ。
「デザートライオンの毛皮、相場より安くなってるね」
商人らしい市場の眺め方も楽しい。
店の親父も、ハマー(人間)が同業者だって分かるみてーだ。「今が買い時だよー」なんて勧めてる。
「あのモンスター、また街道をうろついてんの?」
店の親父に訊くと、前みてーな緊急討伐になるような事態じゃねぇらしい。けど、ここんとこ持ち込まれる数が増えてんのは確かで、もうじき値崩れしそうって話だ。
「ウッディコングみてーだな」
ぼそっと呟くタオに、「おいおい」とツッコむ。
「イヤなこと言うなよ」
デザートライオンのボスなんて聞いたことねーし、そもそもそんな群れるモンスターじゃねーけど、数が増えてるって言われるとゾッとする。
「じゃあ、どっさり仕入れちゃおうかなー」
とか。
「ウッディコングの毛皮って、今どんくらい?」
とか。
商人同士、のんびりと会話を続けてるハマー(人間)を眺めながら、腰の剣に手を添える。
このまま地元とか王都とかに向かうならスルーできるけど、点在するオアシスに寄る予定だし。デザートライオンに遭遇しねぇ保証はねぇ。
ただ、リベンジだって気分にはなれなかった。
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