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色んな商店を回り、市場調査をしたり商談の前フリをしたハマー(人間)は、やがて疲れたようにため息をついて、「ノド乾いた」と言い出した。
「喋り過ぎじゃね?」
「宿に帰って水飲めよ」
タオと2人でからかってると、ふと見覚えのある食堂の看板が目についた。
サボテンジュース、と書かれたのぼりに「あっ」と思うより早く、ハマー(人間)が「ジュース飲もうぜ~」つって歩き出す。
ジュースだけなら立ち飲みでも十分だろうに、中に入って「3人ね~」なんて言ってるとこ見ると、歩き疲れてもいたんだろうか?
「いらっしゃいませー、ご注文はー?」
同い年くらいの女店員が、よく通る甲高い声でオレらに言う。
サボテンジュースを3人分頼むと、間もなく女店員がグラスを3つ持って来た。
コトンコトンと音を立てて置かれるグラス。「おー」と喜ぶハマー(人間)の笑い声。
けどオレはそれより、店員の右手首に着けられた銀のブレスレットが気になった。キレイに磨かれた赤いルビーと、独特の装飾。前にも見たなと思い出す。
王都に向かう前、この街で装備品を揃えに寄った時にふらっと入ったのも、この店だった。その時も、この店員のブレスレットが気になって――。
ミーハにやったハズの「恋人の証」と、それはやっぱそっくりに見えた。
ザァッと血の気が引くと同時に、ガタッと立ち上がる。
「このブレスレット、どこで?」
ぐっと店員の手首を掴み、捻り上げるように覗き込む。「きゃっ」と声が上がったけど、気に留める余裕はねぇ。
はめ込まれたルビーの大きさも研磨具合も、やっぱオレの記憶と同じだ。1点物の特注品、同じデザインのブレスレットが偶然2つある訳なかった。
「なあ、このブレスレット、どーしたんだよ!?」
店員の手首を強く引き、怯えた顔を真っ直ぐ睨む。
「い、痛い……」
「アル、やめろ」
店員の嗚咽やタオの叱責も、耳の中を素通りする。たちまち店内は騒ぎになり、店長らしきオッサンが出て来たけど、関係ねぇ。
ただ、このブレスレットの出所が知りたかった。
なんで――あの日まで、確かにミーハが持ってたハズのブレスレットを、この女が持ってんだ?
「お客さん、困るなぁ」
オッサンの声と共に、店員の腕を掴んでた手を掴まれる。
「すんません。アル……!」
オッサンにハマー(人間)が謝ってんのがぼんやり聞こえる。けど、まあ質問に答えて貰ってねーし。このままじゃ終われなかった。
「オレはこのブレスレットを、どーやって手に入れたか訊きてぇだけだ!」
大声で怒鳴り付けると、店員はビクッと肩を震わせて、「拾いました」って消えるような声で言った。
「はっ!?」
問い返す声の、デカくなったのが自分でも分かる。
「拾いました、ずっと前に!」
「どこで!?」
「店の前で!」
ヤケクソのように、大声で答える女店員。さっきと比べて怯えてねぇように見えんのは、オッサンが出てきたからだろうか。
「店の前……」
呆然と呟いて、食堂の出入り口に目を向ける。
拾った装飾品を自分のモンにするなんて、よくある話だ。きっと持ち主がすぐに探しに来れば、すんなり返すつもりはあったんだろう。
けど、記憶を失くしたミーハが探しに来られるハズもなく……。
落としたことにも気付かれなかった、その事実が今は何より胸を刺した。
「……売ってくれ」
店員の腕を放し、腰の財布に手を突っ込む。
無造作に握った金貨銀貨をごちゃっとテーブルの上に置くと、店内のざわめきは一気に静かになった。
ブレスレットの値段なんて、このルビーを含めたって金貨3枚にもならねぇ。
払い過ぎだって、自分でも分かる。
ピンキードラゴンやウッディコング、ボス討伐のお陰もあって、今は金に困ってねーし。もっと豪華なブレスレットを、作って贈ることもできる。
オレだってそうなんだから、ルナやミーハはもっとだろう。こんな安物の銀製品なんて、渡しても困惑するかも知れねぇ。
けど、これじゃなきゃダメだった。
オレが拾ってミーハが研磨したルビー、ミーハが「転送」した石を売った金で、ミーハのために作らせたブレスレット。
世界でこれ1つしかねぇ特注品で、大事な「恋人の証」だ。
「これじゃ足りねーか? なら……」
低い声で呟きながら、財布に更に手を突っ込む。けど、オレが金を出す前に、女店員がコトンとブレスレットをテーブルに置いた、
「貰えません! 返しますけど、お金いりません!」
青ざめた顔で喚かれたけど、1回出した金を「そーかよ」って戻す気にもなれねぇ。結局、店の迷惑料だっつって、テーブルに置いたままにして店を出た。
ジュースを1口も飲んでねーのに気付いたけど、今更休憩って気分でもねーし。タオやハマー(人間)と話す気にもなれなくて、黙ったままで宿に向かった。
これを落としたのは、どっちのミーハなんだろう?
ブレスレットを渡したとき、嬉しそうに頬を染めてたミーハ? オレのケガに泣いて、何度も「治癒」をかけてくれたミーハ?
それとも数週間前の別れ際、銀の腕輪について訊いたオレに、「知らない」って首をかしげてたミーハだろうか?
落とした時、気付かなかったのは――すでに記憶がなかったからか?
ちょっとは探した?
それとも、どうでもいいと思ってた?
「アル。んな顔するくらいなら、王都に戻れ」
いつもよりキツイ口調でタオに言われたけど、「んな顔」がどんな顔なのか、ツッコむこともできねぇ。どうすんのが正解なのか、自分でもよく分かんなかった。
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