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王都まで行くのに、結局2日かかった。
王都までまっすぐ「転移」できなかったせいもあるけど、何より寄り道が多かったせいだ。
何しろ「転移」や「転送」は、自分の行ったことある場所にしか移動できねぇ。
ミーハは魔法使いらと一緒に「転移」メインで移動してたっつーし。そうして「転移」した先は、市街地よりもモンスターの出る場所が多い。
あと、地理的なモノがまったく分かってねーのも問題だ。
「チビ、前にキラービー倒してハチミツ採った森があっただろ」
とか。
「レインボーバード氷漬けにした山、覚えてっか」
とか。そんな風にルナとの思い出を辿りながら、「転移」を繰り返してくしかなかった。
そうすると当然、行く先々でモンスターに襲われる。
オレらがいりゃ大体オーバーキルになるけど、集団で来られる場合もあるし。そうなったらやっぱ、しばらく戦闘になったりもする。
戦闘になったら腹が減るし、そしたら近くの町や村を探してメシ食いに行こうってなる。
ハマー(人間)がいねーから、ゆっくり行商ってことにはならねーけど、食い歩きはやっぱするし。
「別に急がなくていーだろ」
って、ルナやタオがのんびり構えてんのも問題だ。
まあでも確かに、オレもこの4人で行動すんのは楽しくねぇこともなかった。
ミーハと2人きりならもっと楽しかったと思うけど、それだと2日じゃ着けなかっただろうし、文句言っても仕方ねぇ。
「アル、君っ、ハチミツ漬けっ」
オレの手をぐいぐい引きながら、食い物をねだるミーハも可愛い。
鳥の丸焼きをタジマと一緒に豪快にかじる、色気より食い気な姿も可愛かった。
王都に「転移」した先は、見覚えのある中央広場だった。
取り敢えずロックドラゴンの分け前を貰うため、賞金受け渡し所に向かう。依頼の貼られた掲示板も、そこに集まる賞金稼ぎたちの様子も、何も変わってなくて懐かしい。
オレとミーハは途中でリタイアした訳だけど、それなりに討伐の功績はあるみてーで、ちゃんと頭割りした賞金と、ウロコや肉を手に入れた。
受け取りに行くのが遅かったせいで、ほとんど余り物になっちまったみてーだけど、ウロコで剣も防具も強化できるし、貰えるだけで十分だ。
ミーハは肉の方を喜んでて、「焼いて、貰おう」って浮かれてる。
どこで焼いて貰うのかと思ったら、「じーちゃんち」ってあっさり言われて、ドキッとした。
そりゃ、じーさんとの面会は避けて通れねぇって分かってるけど、肉を焼いて貰おうとか、そんな風に気軽に考えてるのは意外だった。
もっと重い気持ちっつーか、トラウマの種を想像してたから、ビックリだ。
ミーハにとって、もうじーさんのいるシーン本家は、怖い場所じゃねーんだろうか? 監視され、厳しく訓練させられてたんじゃねーの?
「お前、じーさんちで平気なのか?」
ローブのフードをめくり、顔を覗き込んで恋人に尋ねる。ミーハは「うんっ」と迷いなくうなずいて、それからにへっと笑いながらオレにぎゅっと抱き着いた。
「アル君、いるから、平気」
「ホントかよ」
それがたとえ虚勢でも、オレがいるからって言われると悪い気はしねぇ。
ふふっと笑ってふわふわの猫毛頭を撫でると、「ホント、だよ」ってこくこくとうなずかれる。
「オレ、全部思い出し、た。アル君と一緒なら、オレ、どんな魔法も使える。て、『転移』も『帰宅』も怖く、ない」
怖くない、ってキッパリと言い切ったミーハの顔は、ほのかな自信に輝いてて、すげー眩しくて可愛かった。
トラウマを思い出し、泣いてた以前の姿と比べて、胸が痛む。
帰る家がねーから「帰宅」は使えねぇっつってたけど。オレのこと思い出すと当時に、使えるようになったんだろうか。
聞けば、この間オレが崖から落ちた時、オレを「転送」した後、自分で「帰宅」を唱えたらしい。
そこは一緒に「転移」でよかっただろと思ったけど、オレと距離があり過ぎてできなかったみてーだ。
水に落ちる前に「転送」させてくれたのは嬉しいけど、自分が「帰宅」する前にビショ濡れになってんじゃ世話が焼ける。
けど、そのお陰で記憶が全部戻ったんだっつーから、それも必要だったんだろう。
「アル君のこと、じーちゃんに紹、介、する、ね。だ、だ、大事な人、です、って」
そんな大胆なことを言いながら、じわーっと赤面してくのが可愛い。
好きだ。
大事にしてぇし、絶対にこの手を放したくねぇ。
そんでもう2度と、瀕死の重傷を負ってコイツを泣かさねぇって、胸に誓う。
「じゃあ、行くか。じーさんち」
意志を固め、ミーハに手を差し出すと、ミーハは「うん」とうなずいて、オレの手をぎゅっと握った。
杖を持つ手首には、オレの贈った銀とルビーのブレスレットが輝いてて、「恋人の証」を示してる。何も怖がることはねぇ。
「テレポート!」
ミハシの呪文と共に、目の前に魔法の光が広がって――目を開けると、すげー広くて薄暗い、デカい部屋の中にいた。
「ミーハ……!」
息を呑む気配に目を向けると、デカくて真っ黒なデスクの向こうに、白髪交じりの頭の老人がいて、こっちをビックリ顔で見詰めてる。
その顔には見覚えがなかったけど。
「じーちゃん、ただいまー」
ミーハが無邪気にタタッと寄ってく姿を見て、それがミーハのじーさんなんだと、紹介されるまでもなく分かった。
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