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「率直に訊くけど。ミーハのミスで、あんたがケガした事ってあんのか?」
オレの問いに、ルナはあっさり「いーや?」と首を傾げた。
「チビのミスって事はねーなー。ケガすんのは相棒のせいじゃなくて自分の技量が足んねーせいだし。オレは強いかんな」
胸を張ってエラそうに笑うルナは、やっぱタオと同じ凄腕の剣士だ。力強さと自負を感じる。
けど、ルナがいくら「相棒のミスじゃねぇ」って思ってたとしても、ミーハが同じように感じるとは限んねーし。
「ハイランダーウルフに咬まれたとか言ってなかったか?」
血が止まらねーとか、ミーハが泣き止まなかったとか――そう言ってたのを横で聞いた気がする。
多分、『治癒』で思い出したヤツだろう。
「あー、確かにあったけどよ、別にチビのせいじゃねーぜ? 咬まれたくらい、大したケガじゃなかったし」
ルナはそう言うけど、いや、大したケガだろう。
だって、オレはあのデカい口と鋭い牙を間近で見た。
ルナに横から助けて貰ったから良かったけど、あれに咬まれて軽傷ってコトはねーと思う。
それにミーハだって、泣き止まなかったっつーんだから……。
ミーハの泣いてる姿を想像すると、そんだけでズキッと胸が痛む。
「置いて行かないで」「怖い」「オレの家はここでいいの?」「捨てないで」……。アイツの抱えてるトラウマは、かなり根深そうだ。
なのにその上、アイツの前で下手にケガして、更なるトラウマを負わせたくはなかった。
「んー、まあ言われてみりゃ確かに、あん時のチビは泣き過ぎだったって気もするなぁ」
ルナが腕組みしてぽつりと言った。
「もう治ったっつーのに、『治癒』を連発してよぉ。そんで、薬草まで押し当てて来て。傷口ももう何もねーのにさ」
「治癒連発……」
その上、治った場所に薬草を押し当てようとする。
想像してみると、ちょっと変かもな。
じゃあ、ミーハのケガに対するトラウマは、ルナと組む以前のことか?
冷たい親戚連中か?
いや、でも、親戚ってのは魔法使いのエリート家系なんだろ? だったら、んな動揺することねーんじゃねぇ?
親戚連中じゃねーとしたら――誰だろう?
――それ以前、か?
ルナも同じことをちらっと考えたらしい。オレを見て「なあ」と言った。
「チビのガキの頃のこと、なんか聞いたか?」
ガキの頃――?
眉をひそめて、何言ってんだ、と思う。
「いや、それはアンタの方が詳しいだろ? アイツ、記憶喪失なんだから」
「逆だな。オリャー、チビからガキん頃の話なんか聞いたことねーぞ。でもお前はチビの幼馴染みとも会ってんだろ? 何かそういうの、聞いてねーの?」
ルナの言葉に、ハマー(人間)の顔を思い出す。
でもハマー(人間)もその当時はガキだったし、覚えてねーって言ってたよな。
覚えてるつってたのは何だった?
一緒に遊んだとか、『研磨』で稼いだとか、の他に――駆け落ち婚で、母親と2人で貧乏長屋に住んでたってコト、くらいだったか?
じゃあ、父親は? 母親は今――?
けどその答えを、ルナも知らねーらしかった。
ミーハが降りて来てから店を出て、夕方まで解散ってことになった。
「日暮れ前に出発すんぞ、それまで休んどけ」
ルナはオレらにそう言って、でも自分は宿とは反対の方に歩いてく。
馴染みの休憩所か何かあんだろうか?
一緒に来いとは言われなかったし、「解散」だっつーんだから、オレらとは別行動してーのかも知んねぇ。
「オレらは……じゃあ、宿で休むか?」
柔らかな髪を撫でながら顔を覗き込むと、ミーハは力なく弱々しく笑って「うん」と言った。
前に『雨』を使って虹を見せた、っつーガキに会いに行った後、店の2階から戻って来たミーハはにこにこ笑ってたのに。
オレと2人きりになると、途端に笑顔がしぼんじまって、内緒だけどちょっと傷付く。
「どうだった? 何か思い出せたか?」
歩きながら訊くと、ミーハは黙って首を振った。
なんか、ホント様子がおかしい。つーか……ふさぎ込んでる。
「なあ、ケガ……」
ケガに関して、なんかトラウマでもあんのか、と――訊こうとしたけど、訊けなかった。
オレのその一言を聞いただけで、ミーハがハッと怯えた様子を見せたからだ。
一瞬でザッと青ざめた顔を見たら、とても今は、質問を続けられそうになかった。
トラウマに関する記憶があるのか、ないのか。
いや、むしろ曖昧だからこそ、余計に不安で怖ぇーんじゃねーか?
「け、ケガ、なに?」
どもりながら訊かれて、ふっと苦笑する。守りてぇと思う。泣かせたくねぇ。
「ケガしねーから、オレ」
街中を歩きながらだけど。通行人の目を盗んで、ちゅっと頬にキスして笑ってやると、ミーハはじわっと赤くなって、それから泣きそうに顔を歪めた。
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