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グオォゥッ! ファイヤーライオンが炎を吐いた。
火気だけでも熱かったっつーのに、マジ冗談じゃねぇ。
炎をまとったモンスターが跳ぶ。
「あぶねっ!」
とっさにミーハを抱えて横跳びに避けると、入れ替わりにそこに立つのは1頭のファイヤーライオン。
オレはすかさず立ち上がり、ミーハを抱えたまま距離を取った。
残り2頭は? どこ行った!? タオとルナが相手してくれてるんだろうか?
気にかかるけど、こっちも余裕がねェ。目の前のモンスター1頭から、とても視線を外せねェ。
ファイヤーライオンがゆっくりと向きを変え、つり上がった目でオレを見た。
『劫火』の炎はあっという間に収束すんのに、モンスターのまとった炎はずっと消えず、じりじりと空気を焼いてくる。
けど、炎をまとっても、攻撃パターンは変わんねーらしい。だったら――もっかい試すしかねーだろう。
もう、さっきみてーなジャンプからの攻撃はできねぇ。
やるんなら、いつものヤツだ。
熱く焼けた柄をぎゅっと握る。
「ミーハ、ちょっと離れてろ」
恋人の肩をぎゅっと抱き、それから庇うように前に出る。
「そんで、『水球』3連発の後、すぐに『氷山』を頼む」
『氷山』が通用しねーだろうってのは分かってる。朝だって失敗だったのに、炎をまとってる今、多分、数秒の時間稼ぎにもなんねーだろう。
でも構わねぇ。目的は時間稼ぎじゃねーし。
『水球』、『氷山』、それが破られる前に走りだし――。頭の中で、1度軽くシミュレートして、やれると信じる。それしかねぇ。
けど……。
「……ミーハ?」
いつもなら「分、かった」って舌足らずに言ってくれるハズの恋人が、何でか返事をしねェ。
「どうした?」
振り向いてる余裕はねぇ。目の前の敵から目が離せねェ。モンスターがふっと姿勢を低くした。
――来る!
「くそっ!」
ミーハを突き飛ばして、砂の上を転がる。
ぶわっと湧き起こる砂埃。気のせいか、その砂もさっきより熱い。
グルル、と不機嫌そうな唸り声が鳴った。獲物に逃げられてご機嫌斜めか?
けどワリーな、オレは獲物じゃねぇ、狩猟者だ!
「ミーハ、立て! 今だ!」
恋人の魔法使いに合図を送り、剣を構えて走り出す。
「う、うう、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール!」
要求通りの、『水球』3連発。炎に当てられて、魔法の水はたちまちジュワーッと蒸発してく。
そこへ『氷山』。
「グレイトフリーズ!」
ビシッと音を立て、巨大な氷がファイヤーライオンを包み込む。
けど、それも一瞬で。
朝みて―に砕け散るどころか、その魔法の氷さえ、ジュワーッと音を立てて溶けてった。
ひゅっとミーハが息を呑んだ。
また失敗だ、とか思ってっか? けど、「失敗じゃねーぞ」って伝えてやるような余裕はねぇ。
魔法の氷とモンスターの炎、ぶつかり合って生まれたのは、計画通り大量の水蒸気!
「アル君!」
ミーハがこわばった声でオレを呼んだ。
でも返事なんか浮かばねェ。目の前のモンスターの急所しか見ねぇ。
熱い蒸気を全身に被りながら、オレはその中に全力で駆け込み、勢いをつけてぶつかった。
本来は、敵が襲い掛かってくんのを待ち受けて、その力を利用して深く刺す技だ。
相手が大きく、鈍重であればある程効果的で。普段、荒れ野でワイルダーベアを相手にしてる限り、不安を覚えることもなかった。冷静でいられた。
けど、今は――。
「くらえぇぇぇーっ!」
自分自身でも走りながら、モンスターの正面、炎を吐くアゴの下に潜り込み、炎と牙をギリギリよけてそのノドに剣を刺す。
無我夢中だった。
全身に燃えるような熱さと痛みを感じたけど、構ってらんなかった。
剣を持つ右手に負荷がかかって、ぶるぶると震える。
グオォォォゥ。
頭上から響く唸り声。いつもの断末魔の声じゃなくて。モンスターの前足が砂を掻く。
急所を一撃してるハズなのに、なんでまだコイツ動いてんだ? と、思った瞬間、全身から血の気が引く。
「アル君! アル君!」
ミーハの泣き声が聞こえた。直後。
炎をまとったモンスターの前足が、鋭い爪が、左半身を直撃して――避けることもできなかった。
吹き飛ばされて地面に落ちる寸前、杖を構えたミーハの姿が目に入った。
右手で杖をまっすぐに構え、左手は胸元をぎゅっと握ってた。
それは、不安な時のミーハの癖で。
あー……こんな時……抱き締めて頬に軽くキスしてやれれば、リラックスできんのにな……。
そう思ったのが、最後だった。
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