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53にしおりをはさみました!
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53
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木の上によじ登り、こずえに隠れて携帯食を食った。
栄養価とカロリーはたっぷり、日持ちするよう水分控え目。味はともかく食感ぼそぼそっつーシロモノだ。
普段なら、適当な小動物を狩って肉焼いて食ったりもするけど、ここまで隠れて入った訳だし、あんま煙とか出したくねぇから仕方ねぇ。
タオには文句言われるかと思ったけど、案外静かだ。
「やっぱこっからじゃ見えねーなぁ」
そんなことを呟きながら、上の方の枝まで軽々と登って、遠くの方を見渡してる。どうやら、頭ん中はもう、ピンキードラゴンのことでいっぱいらしい。
「なあ、ピンキードラゴンって火ィ吐くんだっけ?」
「いや、火ィ吐くドラゴンがこんなとこいたら、とっくに山火事になってんだろ」
オレのツッコミに「それもそうか」とうなずいて、するすると枝を下りてくる。
「何か見えたか?」
「おー。ドラゴンは見えなかったけど、15人くらいの集団なら見えたぜ」
にんまりと笑いながらの報告に、ドキッとした。
閉鎖されたハズの山の中に、15人くらいの集団。ピンキードラゴン狩猟隊の本体に間違いねぇだろう。
「ルナはいたか? ……ミーハは?」
そわそわと訊きながら、上方のこずえをちらちら見る。
オレだってそうデカい方じゃねーけど、小柄なタオよりは体重がある。あんま無理して上る気にはなれねぇけど、気になって仕方なかった。
「ルナはいたけど、ミーハは分かんねーなぁ。杖持ったヤツらが何人かいたけど、みんな揃いのフード被ってんだよな」
「そうか……」
そわそわと逸る気持ちを押しとどめ、状況をかみ砕くべく頭を回す。
杖を持ってるってことは、きっと魔法使いだろう。揃いのフードが何人もいるってことは、多分みんな関係者。仲良しグループっつーより……やっぱ、監視だろうな。
この街に、あの家に、居場所がねぇっつってたミーハ。超優秀な魔法使いで、大人たちに囲まれて、ガキの頃から英才教育を受けてた、って。
オレらが何度面会を求めても、ミーハ自身に自由がねぇなら、会えるハズもねぇ。
やっぱ監視され、監禁されてんだろう。
だから、オレらの「家」に戻って来れなかったんだろう。
会いてぇなっていう甘い想いが、薄墨の混じったような不安のモヤに覆われる。
ピンキードラゴンよりも何よりも、オレはミーハの顔が見たかった。
ルナらの一行に追いつくのは、思ったよりもすぐだった。
ドラゴン退治に名乗りを上げる猛者だけあって、さすが余裕があるらしい。オレらみてーに木の上で食ったりしねーで、堂々と草むらに座り込み、途中で狩ったらしい動物の肉を、たき火でジュウジュウ調理してる。
煙がもくもく立ち、肉の焼ける匂いが風に乗って運ばれる。
モンスターが寄って来ても気にしねーんだろうか? それとも、むしろ呼び込んでんだろうか? ウッディコングは小柄だけど、集団で襲われたら厄介だぞ?
白いフードを被った魔法使いの集団が、タオの報告通り、ぞろぞろいる。ミーハがいるかどうかは遠目じゃ見えねぇ。
「うまそう……」
タオがぼそりと言うのを聞きながら、物陰から魔法使いの集団を見る。
「もうちょっと近くに行かねぇ?」
上空から黒い影が差したのは、オレがそう言った時だった。
ハッとして身構えながら、上空を見る。
逆光になっててハッキリは見えねぇけど、かなりデカいって、そんくらいは分かる。
ぶわっと1回羽ばたいただけで、強風がうずまき、つむじ風を起こした。
「うわっ」
右手を剣に当て、左腕で顔を庇う。
恐る恐る目を開けると、真横にいたタオがらんらんと目を光らせ、満面の笑みを浮かべてた。
本隊の方も、タオと同類が多いらしい。テンションの高そうな声が向こうから響いて、さっそく立ち上がってるヤツもいる。
「アル、行こうぜ」
楽しみで仕方ねぇって顔で促され、何言ってんだってじろっと睨む。
「2人じゃ無理だっつの。つーか、ピンキードラゴンが目的じゃねーだろ」
「そうだっけ?」
邪気のなさそうな応答に、ちっ、と小さく舌打ちをする。
ミーハのボケは天然だけど、タオは天然でも純粋でもねぇから、無邪気なフリは要注意だ。
さっきの強風で魔法使いたちのフードも取れてたけど、すぐに被り直されちまって、ふわふわの薄茶色の髪のヤツがいたかどうか、チェックすることはできなかった。
そうこうしてる内に、向こうも移動の準備ができたらしい。
「おし、気合入れて行くぞ!」
ルナの大声に合わせ、「おおっ!」と声が上がった。若干気合が足りてなさそうなのは、しーんとしたままの魔法使いたちのせいだろうか。
こんな時、いつものミーハなら、満面の笑みで「おおーっ」って叫んだりするのにな。
『アル君、それ欲しい』
『お、オレも行き、たい!』
上目づかいでねだり事して、オレをいいように振り回す、可愛くて愛おしい小悪魔を思い出す。
ダッと飛び出して立ち塞がり、全員のフードを上げさせ、顔を確かめたくてたまんねぇ。
「行くぞ」
タオにぼそりと囁かれ、気合を入れて立ち上がる。
「降りた場所、検討つくか?」
「ああ、バッチリ見たぜ」
ニシシ、と笑う天才剣士に半分呆れつつ、頼もしく思った。
「あいつらだって、獲物追ってんだ。つまり、獲物を追いかけりゃミーハにも会えて、ドラゴンともやれて、一石二鳥ってことだよな」
「まあな」
苦笑しながら返事して、それから静かに山道を歩いた。ルナらの通ったトコとは違う道をわざと選び、なるべく早くにドラゴンの居場所を目指す。
クエェェェ。
不気味な鳴き声を聞きながら、タオの勘を頼りに先を急ぐと――山奥の木々に囲まれた滝壺で、巨大な薄水色のモンスターが魚を食ってるトコに出くわした。
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