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実際、忍は綺麗だ。
そして調理をするからか、指の先の先まで綺麗だった。
「どうだ、美味いだろ。」
「うん、美味い!」
小汚い街の中華屋は、どこか温かい。
家庭の味というには美味すぎるけど、どこか懐かしい味がする。
中華丼と、春巻き、パリパリの羽根のついたギョウザを頼んだ忍は、ガサガサの割り箸を綺麗な指で使い、美味しそうに頬張っていた。
俺はその様子をみながら、酢豚のピーマンに餡をたっぷり絡めてご飯に乗せた。
「あ、その酢豚も食べたい。」
「どうぞ。」
皿を押しやると、忍は大きくカットされた肉を摘んでパクリと食べた。
「うん、美味しい!」
「良かった。」
無邪気な笑顔は、眩し過ぎて目に毒だ。
さっきから心臓の動きがおかしい。
・・・女の子じゃねぇのに、なんでこんなにドキドキするんだ?
「忍はいくつなんだ?」
「21。」
やっぱり。
艶々した肌の感じが、新採用で入ってくる子たちと同じだったから、ハタチそこそこと想定していたが、間違いなかったらしい。
「歩さんは?」
「俺は、35。」
「何やってる人?」
「サラリーマンだよ。会社勤めしてる。忍は?」
「学生。」
だよな。
「専攻は?」
「量子力学。」
・・・これ以上、何も質問できねぇ。
やっぱ、忍は頭が良いらしい。
「歩さんは何を勉強してた?」
「・・・うーん。」
ぽりぽりとこめかみを掻いた。
「体育。」
「体育?じゃあ、教員免許とかも持ってたりする?」
「ああ、無駄に持ってる。」
「へぇ。」
加藤とはサークルで知り合った。
あの頃は、毎日が楽しくて仕方がなかった。
「大学、行けてんのか?」
「ううん、リモートが多いかな?実験の時は行くけど、あんまり実験も出来てない。」
コロナ禍か。
「おかげで店を開けれるから、ちょうど良いんだ。」
「そっか。」
聞きたいことは色々ある。
生活費は足りているのか、親御さんはどうしたのか、これからどうしていくのか、知りたいことはたくさんある。
だが、どうしても聞けなかった。
聞くには、俺自身の覚悟が必要だったからだ。
「ご馳走様でした。」
「全部食ったな。」
「うん。」
会計を済ませたらどうしよう。
また忍はひとりであの喫茶店に帰ってしまう。
「・・・なあ、うちでゲームでもするか?」
「ゲーム?」
忍が難しい顔をした。
「映画でも良いし、とにかく今日はうちに来いよ。」
「・・・。」
昨日会ったばかりの俺を信用できないのは分かる。
俺も言いながら、ナンパしてるみたいな変な感じだ。
胸はドキドキするし、財布を握る手だって震えそうになっている。
俺が喫茶店に行ってもいいけど、そこだと心を閉ざされそうで、ちょっと怖かった。
彼の重いしがらみを背負う覚悟もないのに、世間話的に聞き出すつもりもない。
ないけど。
ないんだけど。
「・・・お前、今日はひとりになるな。」
うん、と言ってくれ。
「おっぱいは無いよ。」
「知ってるさ。ただ、いつもと違う一日も良いと思うよ。」
心臓が弾けそうだ。
「・・・歩さんがいるだけで、今日はいつもと違った。」
氷だけのコップを見つめる忍は、その小さな頭で色々考えているようだった。
「ぼくは厄病神が憑いてる。きっと歩さんに迷惑かける。」
静かに呟いた言葉に、俺はにっこりと笑ってやった。
「それなら俺も負けちゃいねーよ。今週月曜日に離婚したばっかだかんな!」
目を丸くした忍の頭を撫でた。
「ほら、うち行くぞ。年長者の言うことはきくもんだ。」
加藤がしてくれたように、手を引いて肩を抱いた。
悲しい現実を背負った彼を、今夜はぐっすりと眠らせてあげたかった。
「・・・うん!」
俺は、今夜だけは、いつもと違う一日を過ごさせてあげようと誓った。
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