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3
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「……人に優しく」
「THE BLUE HEARTS」
「なに?」
「なんでもない。第3条」
「…………常に礼節を重んじよ」
「第57条」
「知識は更新していくものである」
引き剥がそうとしても背中までべったり腕を回されていて、ちょっとやそっとでは逃げられない。
「第8条」
「……………」
「第8条は?」
「忘れた」
「忘れるわけない」
「一旦離れようか?」
「それはやだ」
「なんでだよ」
「話そらさないで答えてください。第8条は?」
「忘れた」
「忘れない。忘れてないでしょ?」
「忘れた」
「ダウト。あー、も、めんどい。目解家ってなんでこんなに800も家訓あって嘘つくのは禁止じゃないんだろ……」
「800もないよ。756だよ」
「どうでもいいよ」
「離れて?」
「久しぶりの他人の体温ってどう?」
「熱くてくらくらする」
「答えたら離れてあげる」
「…………………孤独の禁止」
大正解です、と彼は満足そうに笑って、僕の脚を刈る。緩慢な動きだったので避けることは大変に容易かったが、彼がどうしたいのかを見たかったので、畳の上に倒れてあげた。そしたらまた抱きつかれた。
なんでこの子がこんなに喜んでいるのかが、皆目わからない。大型犬がじゃれついてるみたいだ。うっかり頭を撫でそうになるのをこらえた。
「………………離れてくれるんじゃなかったのかな」
「嘘つくなってルールないの超素敵」
「どいてほしい」
「家訓に従ってこれから毎月貴方のところへ来ます」
「来ないでほしい」
「退屈じゃないの? 普段何してんの?」
「…………………一回どいてくれないかな」
「ひとりぼっちってさみしくない?」
「シヅさんがいる」
「シヅさんにはシヅさんの人生が。今日デートだよ、あの人」
「えっ」
ああそうか。香水。化粧。しかし何故彼がそれを知っている。
「玄関先で言ってた。初対面のおれには言うのに貴方が知らないの?」
「……距離が近いと逆に言わないこともあるだろ」
「テレビもないし新聞もないし友達いないし外には出ないし、唯一親しい人とは近況も身の回りの変化も話さない」
「断定するな」
「そうやって全部遠ざけてひきこもニートだから反動でおれみたいなのが飛び込んでくんだよ」
「ひきこも」
「ニート」
「君は僕を愚弄しに来たのか?」
「仲良くなりに来たんだよ。ねえねえ世捨て人。世の中にはね、面白いことと楽しいことがいっぱいあるんだよ?」
「そうですか」
「ていうか情報どうしてんの? スマホ? タブ? パソコン持ってる?」
「要らない」
「貴方がひきこもってる間に元号は変わったよ」
「それは知ってる」
「今の首相は?」
「…………………」
「…………………えっ、ごめん冗談のつもりだったんだけど」
「実生活に支障はない」
「空にUFO浮いてる時代ですよ」
「騙されないよ」
「いやいや、マジで。ちっちゃいやつ」
「……………」
「えっ、えっ、マジで知らないの? UFO知らないの? 空飛ぶ円盤」
「…………騙されないぞ」
「灰皿に糸くくりつけた奴じゃないよ? UFOだよ? まあ全然未確認じゃないけど。二万ぐらいで買えるし」
「……………………」
「駄目か」
「なんだ嘘か」
「えっ?」
「うん?」
「………………………え、今ちょっと、」
「冗談に乗っかってみただけだよ」
「乗っかってんのおれですけどね」
「早くどいてくれよ」
「何がそんなに怖いの?」
美しい日々。
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