アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
2にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
2
-
【第三話 目、目、目】
サイケデリックな色遣いに、目、目、目………と書かれたシャツを羽織って倫太郎は今日やって来た。さすがに着替えさせたいと思ったが、シヅさんは彼の服装を誉める。一体何がいいのか知らん。理解不能なこともこの世にあるとはわかっていても、それが目の前で繰り広げられるとなんだか頭痛がしてくる。
やたら倫太郎の機嫌がいいので、何かと思ったら、夏休みに入ったらしい。シヅさんと、過去の思い出やら今年の計画やらで盛り上がっている。久しぶりに聞く単語ばかりだ。夏祭り。キャンプ。花火。海水浴。
例のごとく彼女は僕らを残して消える。途端、倫太郎は落ち込みはじめた。畳にゴロゴロとだらしなく転がって、恨めしそうに僕を睨む。
「海行きたい」
「行けば? 神奈川に別荘持ってただろ」
「……海見たい」
「うん」
「ウニ見たい」
「うん」
「ウニ煮たい」
「お好きにどうぞ」
「海見たい、礼介くんと」
「………………」
「………………はいはい。いいよ。わかってるよ。それはさすがにハードル高いよね。ハードル高すぎてむしろ下を潜り抜けるレベルだよね。鳥居だよね」
「御家族で行くでしょう、君。毎年伊豆に行くんじゃなかった?」
「………………なんで知ってんの」
少し機嫌が悪くなった。……そんな顔もするのかと、謝罪より好奇心が勝る。
「君のお父さんがね、」
「会ったの? いつ? なんで?」
「………………昔言ってた。なんでそんなに怒る」
「お、……こって、ないけど、別に」
「会ったら不味い理由でも?」
「……………………」
あるらしい。不自然に動揺している。理由を考えて、質問を続ける。
「……………君のお父さんはここに来ることを反対している?」
「えっ、するわけないじゃん。礼介くんのファンなのに。つーかめっちゃ心配してたよ。干からびて死んでるかもって」
内心安堵する。彼の父親とは以前親しくしてもらっていた。裏表のない活発な人だった。嫌われても仕方ないが、嫌われたら傷つく。
「そうか。心配してくださってるなら今度電話の一本でも、」
「ああ、やだ、駄目、それは駄目」
今すぐ僕が行動を起こすと思ったのか、物理的に倫太郎は阻止してくる。そもそもそう簡単に僕が連絡を取れるような御仁でないことを、息子の彼は理解していない。
「反対する理由を教えてくれ」
「……………大人同士で勝手に話されるの気分悪い」
「それなら君が同席すればいい」
「やだやだ、だから、さ………………あの、………やだ、冗談でもほんとやめて」
そろそろ涙目になってきたので、やめてやる。
「しないよ。だいたい連絡先知らないし」
「はあ? マジかよ」
「シヅさんならわかるんだろうけど。お目見えするには半年前にお伺い立てなきゃ」
「うわあ、うわあ、ああんもう、馬鹿!」
「人にむかってなんてことを」
「酷いよ酷いよ人でなし」
「そこまで言われる謂れはない」
「……父の前では僕は純朴な子供なので本当にそういうのはやめていただきたい」
「…………ああ、そういうことね」
猫かぶりがバレるのが嫌だったのか。そりゃそんな服着てたらどんな親でも卒倒するだろうよ。
「……君、普段一人称僕なんだね」
「学校じゃ私って言わされるよ。馬鹿みてぇ。おれはおれでありたい」
「雑な言葉を使うと雑な人間になる」
「先生みたいなこと言うじゃん。はいはい大人はかつて子供だったのに子供心を理解しないよね」
僕が僕であるために、と歌いながら彼は踊り始める。それを眺めている。そのうち手拍子を催促される。
夏の午後。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 387