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名探偵とお喋りする。逃げたがってるけど、逃がすかよ。この服どうなってんのかなあ、と気になって脱がそうとしたら、肩の傷を発見した。
銃痕。
お父さん。
…………小説、古新聞、おぼろげな記憶、そんなものより今はるかに現実的にここにある。絵空事。ドラマティック。紙面で多少の脚色はあれど、この人は本当に探偵をしていたのだ。お父さんがこの人を撃ったのだ。
なんだかそれって、リアルにファンタスティック。
「罫を守れればそれでいいと思って飛び出したんだよ」
彼の一言でペラペラだった登場人物は、肉体を持って動き始める。あの小説家。実在した生き物。名前で呼ぶのが当たり前で、しかも呼び慣れてて、ああそうだよね。学生の頃からの付き合いだもんね。
「怪人が銃なんか使うのって興醒めだよね」
怪人。
「あの状況じゃ仕方なかった」
「………………」
「……………………僕が庇うのはおかしいな」
名探偵。
「相棒が死んで怒ってたんだよ、怪人は」
夢幻。
「うん。…………」
「今ならわかる?」
「何を?」
「大好きな人が死んじゃってさ、悲しくて悲しくて、なんもかもぶち壊してやりたいって気持ち」
言葉の矢を射る。この人がまだ怪人を憎み恨んでいるのなら、おれはもう会いたくないなと思う。会うべきじゃない。おれにとっては珍妙で面白くて楽しくて、たまに怖いけど、大好きなお父さんだった。おれが言うのはオッケーだけど、他人に親の悪口を言われたくない。
言われても仕方がないんだけど。
大好きな人を無理矢理奪われて、しかも、そこに子供のあることを知ったら、この人、どう思うんだろう。おれのこと憎むかな。嫌うかな。
おれがこの人を助けてあげたいのに、それにはおれが邪魔だ。おれがおれじゃなかったら、よかったのに。でもおれはおれを大好きだけど。抱きしめるぐらいしかしてやれない。
「…………僕も罫も、自分の正義で動いた。後悔はない」
名探偵は優しくて正しくて悲しい。
幸多じゃないけど幸多役だから、帰るときには大人しい格好をよそおう。まだ跳ねてる、と礼介くんがおれの髪に触れる。いつの間にかそんな仲良しな距離。
レトロな鏡台の前で、髪をとかしてくれる。鏡越しに礼介くんを眺める。そういえば子供のとき、お母さんがこうやってお風呂上がりに髪を乾かして、とかしてくれた。サラサラでツヤツヤで羨ましいって言われたっけ。今じゃお父さんの遺伝かな、癖っ毛。
またすぐ来たいって礼介くんに伝えたら、一瞬喜んだ顔が見えた。僕の後ろに隠れる大人と、わちゃわちゃする。そういえば笑った顔見たことない。笑わせてみたい。
とにかく初日はうまくいって、その時間、友達と映画館に行ってた幸多とは翌日学校でヒソヒソ話。幸多と二人きりで過ごせる時間が増えるとかベリハッピー。しかもむこうからそれを積極的に求められる状態とか。神。嬉し恥ずかし。
「なんか、全然大丈夫だったよ」
ってことにして、計画は続行。幸多も友達と遊べてめちゃくちゃ楽しかったみたい。よかったよかった。どうせならおれも幸多といたかったけど。っていうか二人で遊びたい。おれが幸多の横にいたい。なんでもかんでも初めての幸多の感動全部そばで見てたい。彼の思い出の全部にいたい。……叶わないの、わかってるから、思考はぶったぎる。
倫太郎です。
幸多に言わないほうがいい気持ちがここにあって、礼介くんにも秘密を持ってる。おれって多面体。必ず誰かにはどこかの面を隠してる。ふつうならこういうの、疲れちゃうのかな。流行りの歌やみんなが泣いたっていう映画は、素直な自分とかありのままでとかほんとのワタシは、とか言ってる。みんな暴かれたい。知ってほしいんだ。認めてほしいんだ。
おれはごめんだけどな。そんなの。だってせっかく生きてるのに一つの人間しかやれないの、もったいない。どうせならおれは万物になりたい。二本の脚で歩いたり、子供になったり大人になったり、いい人だったり悪い人だったり、いろんな人間になってみたい。
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