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2にしおりをはさみました!
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先に動いたのは父親だった。
「、、っつ、ふざけ、るな!!」
そんな言葉と共に立ち上がり日奈瀬さんの胸ぐらをつかみまくし立てる。
日奈瀬さんはそんな力に適わずふらりとよろける。
「何が"力が及ばなかった"だ!!何がなんでも助けるのがおたくらの仕事だろう!!それなのに、、、」
力任せに花房さんは日奈瀬さんを投げ捨てる。
踏ん張りがきかず彼は壁に頭をぶつけた。
「日奈瀬さんっ!」
急いで日奈瀬さんの側へと駆け寄る。
頭をさわってみるが血などは出ていないようだ。
「、、トオルはもっと痛かったんだ!!なぁ、息子を返せよ、、まだまだ沢山楽しいこともあったんだぞ!!それなのに、、、」
いつの間にか花房の目からは大粒の涙がこぼれ落ちている
「お前はその未来を、、、あいつの幸せを奪ったんだ、、、」
そう言い切ると花房さんは崩れ落ちるように蹲り、声を押し殺して泣いていた。
日奈瀬さんは一瞬息を詰まらせたかと思うとそのまま立ち上がった。
「、、トオルくんは一生懸命頑張っていました。
僕たちが治療をしている間、一度だってその心臓を止めるようなことはなかったです。
そうして、最後は眠るように息を引き取られました。」
そしてもう一度二人に向かって深々と頭を下げる。
「僕らはそれを繋ぎ切らなければいけなかった。しかしあと一歩及びませんでした。なんと言われても仕方がありません。」
「本当に申し訳ございませんでした。」
そうすると今まで遠くを見つめていた奥さんがゆっくりと言葉を発する。
「ねぇ、日奈瀬先生だったかしら、、。あの子は、、トオルはどれくらい頑張ったのかしら、、、」
「、、一時間半ほど、、、、」
すると花房さんは震える声でつぶやく。
「、、、そう、一時間半も、、、
ねぇ、ハジメさん?トオルは沢山頑張ったのねぇ、、、
それに日奈瀬先生達も必死にトオルを助けようとしてくれたんですって、、、」
だから、もういいんじゃないですか、、、
そう唱えるとゆっくりとハジメさんの側へと移動をする。
「ここにいる誰も悪くなかったのよ、、ただ少し運が悪かっただけなのよ、、」
すると、ずっと黙っていたハジメさんは、、
「、、、そんなことわかっているさ、、先生達だって誰よりもあの子を助けようと力を尽くしてくれたこと、、でもあの子は帰ってこない、、」
顔を腕に埋めたまま唸るようにいう。そんな旦那さんを花房さんは優しく包み込む。
「そうね、、私もわかってる。でも苦しくって、、仕方ない、、、」
そうして二人、しばらく互いを抱きしめて泣いていた。
日奈瀬さんは顔を俯かせておりその表情は見えない。
(俺は、、なんて無力なんだろう、、)
遺された家族に寄り添うことしか出来ない。
それでさえも本当に難しい。
そしてつかの間が経ち、花房さん夫婦はゆっくりと立ち上がってこちらに向かい、言葉を紡ぐ。
「日奈瀬先生、柚木先生。この度は息子のために尽力を尽くしていただいて本当にありがとうございました。」
そうして深々と頭を下げられる。
「、、そんなことをして頂ける立場にはありません、、ですからお顔をお上げになってください。」
「いえ、私たちの息子のためをそんな表情をなさるほど思ってくださって本当に、、本当に感謝しかありません」
花房さんは微笑んで続ける。
「あの子はとても痛かったかもしれない。でも、ひとりじゃなかったんです。先生たちがいてくれたから、、
あの子をひとりぼっちにしないでくれて本当にありがとう。」
そうして俺達は談話室を後にした。
また落ち着いたら後日担当医から詳しく聞くらしい。
これで花房さん達との関係に終止符が打たれてしまった。
そのまま一度救命に戻るためICUを出たその時、
「!日奈瀬さん!?」
扉を出た瞬間、日奈瀬がその場に座り込んでしまう。
その表情は俺から上手く見えない。
(あっ、、日奈瀬、、さん、)
その華奢な肩は小刻みに震えていた。
微かに息を吐く音が聞こえる。
そっと背中に手を重ねる。少しだけ冷たく感じる彼の体温。俺はしばらくそのまま落ち着くのを待っていた。
そうしてしばらくすると日奈瀬さんはゆっくりと顔をあげる。その綺麗な瞳は若干赤くなっていた。
「、、ごめんなぁ、こんな情けないとこ見せちゃって、、」
座り込んだまま日奈瀬さんがつぶやく。
その手は何かを探すように宙をさまよっていた。
何故かその手を掴まなくてはいけないと思い、俺は真っ白なその手を握った。
日奈瀬さんは目を丸くしたあと小さく声にする。
「、、たすけてあげたかった、、おれ、、」
「、、はい。俺も助かって欲しかったです。」
ありきたりな相槌しか打てない。
こんなにももどかしい自分が嫌になる。
「まだ沢山楽しいことあったのに、、、お父さんの言う通りだな、、」
「日奈瀬さんも丹兎先輩も精一杯手を施しました。
それでも少しだけ、届かなかった、、ただそれだけです」
その言葉に日奈瀬さんはそうだね、とうなづいて立ち上がる。
「そうだ、立ち止まってなんていられない。
柚木、ありがとうね。さぁ、戻ろう、お前もシュンタを待たせてるんだろ?早くしないと!」
さっきとは違いにこり、とはにかみホコリを払っている。
とりあえず大丈夫そうだ。
「そうですね、戻りましょう。」
そうして二人でゆっくりと来た道を戻る。
途中で他愛のない話をしたのはきっと二人とも何かを話していなければ色々なことを考えてしまうと思ったからだろう。
「それじゃあ、おれはまだ仕事があるからここでばいばいだな。シュンのことよろしくな、あいつの世話なかなか大変だからな!」
俺から白衣を預かって日奈瀬さんがいう。
この後洗濯機を回す時についでに洗濯をしておいてくれるらしい。
「そうですね、、ほどほどに頑張ります。
白衣、ありがとうございました。それでは、お疲れ様です。」
お礼もそこそこにして俺は丹兎先輩の待つ職員駐車場へと急ぐ。
もう到着しているそうなので早く行かなければ。
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