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神様なんていない。にしおりをはさみました!
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神様なんていない。
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俺は今日、今日この日初めて神様を恨んだ。
僕には唯一の友がいた。友の名は『ハク』。白い龍である。
彼とは森の奥にある川で僕が体の汚れを落としている時に出会った。
最初はただの人だと思っていたが頭に二本の角が生えているので絵本でしか見たことがない龍と悟った。
普段龍は人間の前には絶対姿を現さない。
正確には存在すら認識できないように彼らは魔法を使っている。
そんな『ハク』が僕の前に姿を現した理由は「一目惚れ」だっだそうな。
出会ったその日、僕に言ったハクの第一声は「契を交そう」だったのは今でも覚えている。
そして初対面の僕が強烈な右ストレートをかましたのもいい思い出である。
普通の人間に恋をした龍のアプローチは凄まじい。
口を開ければやれ「嫁になれ」、「番(ツガイ)になれ」とものすごくうるさい。「好きだ」「愛しておる」はもう挨拶だ。
ボディタッチも当たり前。優しくハグもしてくる。酒を飲まされ組み敷かれた時は本当に貞操の危機を感じた。
ここまでしつこく求婚されて、受け入れていないのは彼が雄だということ。
そして僕も、雄である。
もちろん僕は求婚された日に自分が雄であると言った。
そうしたらハクは「大丈夫、俺も雄だ。」と言ってきた。
彼ら龍の世界では性別は関係ないらしい。カルチャーショックである。
ハクは龍なだけあって長生きだ。年齢を聞いたところ100歳から数えるのを辞めたらしい。
正確な年齢はわからないが住処の巨木の芽が生えると共に過ごしてきたと言っていた。
多分1000歳は超えているな、そう考えた僕は「おじいちゃん」とつぶやいた。
この時のハクの顔は忘れられないほど怖かった。
長生きをしていると人の姿に変身もできるようになったしい。つい先ほど抱きついたときは人の姿である。ちなみに僕は龍の姿のハクがの方が好き。かっこいいけどもし言葉に出してしまったら調子に乗るから絶対に言わない。
そんな長老のハクは歳のせいなのか最近は出会った頃より顔色が悪いし、話している時に上の空になったりする。
人と同じように、老化現象だろうか?その時の僕は気にもしなかった。
僕はハクの住処に向かっていた。
彼は森の奥深くの古くからある巨木に住んでいるのだがそこまでの道のりは結構険しく、僕もようやくなれたくらいである。
その日はいつものように巨木に着き、彼を呼ぼうとしたときだった
彼と誰かもうひとりの話声が聞こえてきて咄嗟に木の後ろに隠れた。
「龍族の長老ともなるお前が人間に恋をするとは」
「クロ、お前には関係ないことだろう」
ハク以外の龍を初めて見た。その龍は夜よりも漆黒で、瞳はとてつもなく暗かった。
「ではなぜお前は辛そうにする。答えてやろう、それは日に日に彼への愛情が深まるに連れて時が過ぎるのが怖くなったからではないのか。愛するが故に失った時の悲しみを想像してしまったのではないのか。」
「いうな…」
「そしてなにより、」
「言うな!!」
「人を、人間を糧(かて)としてきたではないか。私達、龍族は」
「もう、それ以上は…言うな」
ハクの悲しそうな声が聞こえる。それよりも僕はクロと言うやつの言葉に驚きを隠せなかった。
人は龍の、糧。龍のごはん。餌。
頭の中がすっと冷え切っていく。愛しているや好きの言葉は偽りだったのか。好きと言ったのは僕を喰らうため?
いろいろな感情がぐるぐる渦巻き、そして弾けた。
僕は頭が真っ白になってしまって来た道を走り出した。
その日から、ハクに会いに行ってない。
会って、あの会話が本当だったのか確かめるべきなのはわかっていた。
でも心が彼を拒絶する。彼は捕食者だ。人を喰らう化物なのだ。
いいや、そんなことはないと叫ぶ。現に彼は僕と過ごした時間がたくさんあったのにもかかわらず喰らおうとはしなかったじゃないか。僕を愛してくれてたではないか!
葛藤の狭間に落ちている僕は時間をズルズルと浪費していくだけだった。
そんな感情で過ごした今日はちょうど一ヶ月目。
震える足を、大丈夫、大丈夫と心に念じながら僕はハクの元に向かう。
巨木についた僕は目を疑った。沢山の葉を成していた巨木が枯れ果てていたのだ。
そしてその根元には見覚えのある白い龍が眠っていた。
近寄って触れてみると温もりがなく、まるで木と同じように静かにそこにいた。
「ハク、おい、冗談だろう?」
この時になってようやく僕は自分の感情を理解した。
僕はこんなにも感情があふれるほど彼が好きだった、愛していた。
本当は恐怖心よりも愛情の方が勝っていた。心優しいテノールが、白い手が、あの龍が好きだった、愛しかった。
なのに自分に正直になれなかった。
この世の理(コトワリ)、時は誰にも戻せない。もう彼は、ハクは目を覚まさないのだ。
無くしたものの大きさを知った瞬間、視界がぼやけ一筋の光が流れた。
「人よ、ハクはお主のせいで死んだ」
振り返ると闇夜よりも漆黒な龍がそこにいた。
大きな翼を広げて僕に話しかけてきた彼は僕に問う。
「人よ、時を戻したいか。この運命を変えたいか」
そんなことができるものか。
もし、そんなことができるのであれば。
袖で涙を拭い、大きく頷いた。
「変えたい!もう一度、もう一度僕は彼と共に過ごしたい!共に生きたい!!」
翼が風を巻き起こす。風は起こす方向とは逆の向きで進んでいる、いや戻っている。
葉が浮かび木にくっつく。鳥の動き、水の流れる向き、すべてを遡っていく。
さらに強い風が吹いた。ついに目も開けられなくなった僕はその場にしゃがみこんだ、。
目を開けると沢山の青々しい葉を沢山付けた巨木が視界に入った。
「ハク…ハク!!!」
立ち上がり、大きな声で彼を呼ぶ。
するといつもするように肩から背中にかけてずっしりと重くなる。
そしてぎゅっと抱きしめられ、ほのかに暖かな腕に包まれた。
「アオ、ようやく俺の嫁になる気になったか」
彼の腕の中に包まれる事がこれほど幸せだとは思わなかった。
「うん、こんな僕でよかったら」
あれだけ振り向かなかった僕が素直になった事に驚いたのか、ハクの力が緩んだ。
この隙に自身の腕を首に腕をつけ彼の唇にキスをした。
「もう、迷わない。僕はあなたを愛してます。」
「我らの「時」など一瞬だ。しかし巻き戻すためには対価が必要になる。人の儚い命がより淡くなってしまったが、幸福ならばそれで良いのだろう?」
「死ぬな…死ぬな…」
ハクが涙を流している。全身が熱い。そうだ、僕は倒れてきた木の下敷きになったんだ
「ハ…ク、」
「しゃべるな、助かるから、助けるから…」
「僕を、喰らって?」
「なにをっ…」
「龍族は、人を糧に…するのでしょ…う?」
「誰からそれをっ」
息が自然と荒くなる。もうわかってる、時間だってことくらい
「僕は、ハクのなかで生き…続ける、だから」
目蓋がゆっくり重くなっていく
「わかったからっ、もうっ…」
「ありがと、う」
あ い し て
「アオ?アオ…うわぁぁぁあああああああ!!!」
神様なんていない。今日、この日初めて俺は神様を恨んだ。
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