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四章 1にしおりをはさみました!
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四章 1
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その部屋には二人の男がいた。
一人は三十代半ばで鷲鼻の天使。服は肌着しか着ておらず、両手両足を金具で拘束されている上に、猿轡まで付けられている。彼は自分を見下げるもう一人の男を、琥珀色の瞳(ウルフ・アイズ)で睨み付けていた。
彼の濃褐色の髪を掴んだ金髪に若菜色の双眸の男は、その美貌に笑みを浮かべる。
「あなたが一人部屋で良かったよ。ねえ、ヴァシリイ・フォン・モローゾフさん?」
「…………」
そう、拘束されているのはモローゾフ中尉。今は全てを目の前の男に奪われた存在。
そして彼の軍服を身に纏った金髪の男は、彼を装った悪魔――――ミハイル。
「あまり必要な情報だと思ってなくて、全部は引き取らなかったけれど……教えてくれない? あの、レオ・クルツ伍長のこと」
ミハイルはそう言ってモローゾフの首を手で押さえ、もう片方の掌を彼の額に当てた。
モローゾフは嫌がるように身動ぎするが、最強と言われる悪魔を前に無駄なことだった。彼の額に当てられた掌から溢れ出した、紫色の光。彼は途端に体を強張らせ、目を見開く。
「――――っ!」
猿轡を付けられたモローゾフの叫びは、声に成らなかった。
薄笑いを浮かべているミハイル。彼の額に当てていた手を暫時の後に離した。
「あなたも大した情報は持っていないんだね。でも、成る程……ちょっと分かった気がする」
モローゾフから引き出した情報を吟味するように閉ざしていた瞳。それを開いてミハイルは床に倒れたまま自分を睨み付ける男に目をやった。
モローゾフは彫りが深いために目元が暗くなっているが、こちらを向くウルフ・アイズは強く光っている。
「猿轡、外してあげようか?」
そう言って彼の口を塞ぐ猿轡に触れるミハイル。
「でも、叫んだりしたら君が死ぬだけじゃ済まないからね? ここの基地の天使、全員の命が君にかかるんだ……わかるでしょ?」
するり、と悪魔の手が猿轡を撫でる。
「君は頭が良いから、馬鹿なことはしないよね。俺がどれくらい強いかくらい分かるもんね?」
そして悪魔の手は、猿轡を外した。
完全に露になったモローゾフの白い顔。彼は噛まされていた布を床に吐き出し、再びミハイルを見上げる。
「…………どうして、」
「どうして俺が悪魔で、君じゃないって誰も分からないかって聞きたい?」
「…………」
モローゾフの無言の肯定に、ミハイル。
「俺の魔力さ。俺は自分の魔力を完全に押さえ込むこともできるしね」
「まさか。ここにいる天使全員の記憶を書き換えるなど……できるはずがない」
彼の見解に、ミハイルは笑みを深めた。
「ああ、そりゃあ無理だよ。俺が書き換えた……いや、上書きしたのは『記憶』じゃない。君という存在の『情報』だ」
「は……?」
「『情報』を換えてしまえば個人の記憶なんて換える必要がない。物事の真理を探る術(わざ)、それが闇の魔力さ。君達が使う神通力だってそうであるはずだよ。誰もまだその真理を見ていないだけでね」
ミハイルの言葉に、モローゾフは押し黙る。次元が違う彼の話に何も言えなくなったのだ。
彼の様子をクスクスとせせら笑うミハイル。
「他にも聞きたいことがあるんじゃない?」
目の前の悪魔の言動に、モローゾフの眉間の皺が深くなる。悪魔に拘束され、全てを奪われ、嘲笑されながらも質問をするしかないこの状況。彼にとって屈辱的だ。
「……目的はヴィノクール特務曹長か?」
いつもの彼の丁寧な言葉遣いは無く、繰り出された質問に、ミハイル。
「そうだよ。コーリャ以外には興味は無い」
「彼に何をした? ここから連れ去るつもりか?」
「そう。俺はまた彼と過ごすんだ。今度はもう手放さない」
「何故彼なんだ? 三日間、何があった?」
更に彼から繰り出される質問。ミハイルは床に倒れた彼の横に座った。
「何故コーリャかって? 君に話すつもりは無いね」
「……何故三日間何をしていたのか答えない?」
「そんな怖い顔すると、奥さんや子供さんが泣くよ?」
ミハイルはそう言って自分の左手の甲をモローゾフの目の前に持っていった。その薬指には、シンプルな銀色の指輪。本来ならモローゾフの指に嵌まっているはずのもの。
モローゾフの目に、憤怒と侮蔑の色が濃く浮かぶ。
「貴様っ」
「怖い怖い、あなたらしくないじゃない。アンバーの瞳が正に狼(ウルフ)だ。それともそれが本当のあなた?」
「ふざけるなっ!」
声量を押し殺した低い声が部屋に響く。それでも美しい悪魔は笑顔で、モローゾフの彫りが深い顔に自分の顔を近づけた。
「俺がコーリャに何をしていたのか、って?」
そこで唐突に、ミハイルの笑みが消え、モローゾフは恐怖に戦慄した。
整った唇を再び開くミハイル。
「それじゃあ君に同じことをしてあげようか? それでよく分かるでしょ? ねえ……モローゾフ中尉」
悪魔の指先がモローゾフの鎖骨から首筋を滑り、唇をなぞり、最後に頬に触れる。その長い指の動きに、彼は息を飲んだ。
「や、めろ……」
「止めろって? 俺がこれから何をするかわかるの?」
「…………」
口を噤んだモローゾフの頬に触れていたミハイルの指先がそこを離れ、彼を仰向けにさせた。そしてミハイルは彼の上に四つん這いになる。
「感づいてる、って顔だ。そうだよね。経験あるものね」
ミハイルの言葉に、目を見開くモローゾフ。
「そんなことまで……!」
「あんなことがあって、よくまだ軍にいられるよね。基地を転属したからって、男ばっかりなのは変わらないよ? 男をレイプしたくなる奴がいなくなるとは限らない」
「止めてくれ……」
モローゾフが目を反らしても、ミハイルは続ける。
「あなた、エロい顔してるもの。あの時はまだ若かったんだし、犯したくなる奴がいたって不思議じゃない」
ミハイルの手は彼の肌着の中に侵入し、腹部から胸元へ向かう。彼は全身に鳥肌が立つのを感じた。
「……私に、触るな」
「俺はゲイじゃないけれどさ、優秀でプライドの高い男を犯すのって最高だよ? あなたのプライドが高いかどうかは知らないけれど、優秀なのは確かだ」
「もう、止めてくれ……。触らないで……ください…………」
弱々しくなるモローゾフの声。その両目に涙が滲んだ。
それにも関わらず、ミハイルは彼の肌着を捲り、晒された白い胸元に手を這わせる。
「四人も相手に輪姦でしょ? 裂けるほど激しくされてさ。俺がコーリャにやったよりも酷い」
「……言わないで、ください…………思い出させないで……」
「ふふ、可愛い顔するね」
手を止めて、モローゾフの唇に口付けするのではないかというくらいまで顔を近づけるミハイル。
「〝喚いたって、ここには誰も来ねぇよ。大人しくしやがれ〟」
「――――!」
「〝ほら、感じるんだろ? 軍曹〟」
「や、止め……」
遂にモローゾフの目から涙が溢れ出た。傷口が開き、血液が溢れ出るからのように、次から次へと流れ落ちる涙。
彼のウルフ・アイズが虚ろになっていくのを見て、目を細めたミハイル。
「脆いね、あなた……モローゾフ中尉も」
捲り上げた彼の肌着を元に戻し、ミハイルは立ち上がった。しかしモローゾフは涙を流したまま動かない。
ため息を吐き、美貌の悪魔はその場を離れた。
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