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父親が七生の意見を呑むことは、今までなかった。けれど、今回の入院で事の重大さに気付かないほど、七生の父親である資産家・アドルフは頭の悪い人物ではない。
七生の身体に起こったホルモンの異常は、アルファとの接触が原因だと、父親は分かっていたのだ。
『ではそれで進めてくれ。あと、帰国の手続きも早急に頼む』
病室の外で父親が珍しく英語でそう話していたので、七生は思わず耳をそばだてて聞いていた。“帰国”という単語に少しドキっと心臓が鳴ったけれど、縁談が無くなった以上、七生が日本にいる理由がないため、それは仕方のないことだ。
(まぁ、その方が良いのかな。俺がここにいる理由なんてもうないんだし……)
城島家との縁談は、八神家からの破談として収められたらしい。ビジネスにおいてはこれからも関わり合いが持てることになり、両家は少し安心しているようだとシャーロットが話してくれた。
「……せっかくでしたら、美代子様のご実家にご挨拶に伺いたかったですね」
退院の日、シャーロットがそう溢したので、七生は「そうだね」と薄手のカーディガンを羽織りつつ言った。
“美代子”とは、七生の母親の名前だった。亡くなってからは日本にある実家との連絡はしておらず、父親も一度も挨拶には行っていない。母方の祖父母に、七生は二度ほどしか会ったことがないけれど、よく面倒を見てもらったことは覚えていた。
七生は日本へ来るとき、その母親の実家に行ってみたいと思っていたのだ。
「次はいつ来れるのかな?」
もうこのまま、自分はイギリスへ帰ることになるだろう。そう思うと、寂しさで胸がきゅっと締まる。
そんな七生を見るなり、シャーロットは優しく笑って言った。
「またすぐ来られますよ。七生様には日本も合っているような気がします」
素敵な国ですね、と言われ、七生は「うん」と頬をほんのり赤く染めて答えた。
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