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萩ノ宮 30にしおりをはさみました!
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萩ノ宮 30
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「ファン?まさか。基本、この曲は、beat noise では演奏をしてない。演奏されたのは、一回だけだ。」
投げやりな口調で、返してくる。
「その一回だけを偶然、見たんです。beat noiseのクリスさんが歌ってるのを…
……その……ライブハウスで……」
刹那、植田の雰囲気が変わる。
「……中村……そういや、おまえ、家出歴があったな。この曲を唯一演奏したのは、真夜中だ。本来なら問い詰めるところだし、許してはいけないことだと思うが、もう、3年も前の話だから、今回は見逃してやる。」
メガネを外して、ニヤリと嗤う。
揺れた前髪の隙間から見えたその端整な顔立ちに、ドキリ、と心臓が跳ねた。が、植田は、すぐに真顔になり、鋭い目つきで、上から聡美を睨む。その所為で浮いていた部分の前髪の隙間から顔がはっきり見えた。
「beat noise のことは、2度と触れないでくれ。そんなバンドは存在していない。」
「……イヤです。せめて、この曲のタイトルと、ギターのクリスさんが、今は何をしているのか、それだけでも、教えてください……」
震える声でそういう聡美の言葉を流すことが出来なく、ため息混じりにタイトルを告げる。
「Lily of the sadness 」
タイトルを言い、1度言葉を区切ってから
「なんでオレがギターのやつの消息を知ってると思ってんの?メンバーの消息なんて知るわけないだろ。」
「タイトル、ありがとうございます。でも、なんで曲のタイトルは知ってるんですか?」
嫌なことに気がついたことに隠しもせず舌打ちをする。
「……元々はオレが作った曲だからだよ……」
「曲を提供してたってことですか?」
舌打ちを聞いてもなお、食いついてくるこの生徒が不思議だった。
「……提供はしてない……けど、ギターのヤツは歌う声には向いてない。でも、ボーカルもこの曲を歌うのを嫌がった。それだけの話だ。」
「クリスさんは気に入ったからあの日、演奏して歌ったんですよね?だとしたら、先生との接点があってもおかしくなくないですか?」
どこまでも嫌な質問をしてくる。第一、オールナイトのイベントで、あの日がラストライブだったバンドのことをほじくり返されても、答えたいとは思わない。
「……第一、なんでメンバーの名前知ってんの?あのバンドはあの日解散しただろ。その後の消息を知ってどうすんの?」
レナとロニーのことは、有名な話ではあるものの、触れないで欲しいとの懇願でもあったのだろう。
「ネットで調べたら出てきました。だから名前を知ることが出来ました。レナさんが有名になってくれたおかげだと思ってます。でもその後はいくら調べても出てくることがなくて……だから、先生なら知ってると思ったんです」
「……スタジオミュージシャンでもしてるんじゃね?Lieraのアルバムの演奏者見れば名前がある。ツアーには参加してないけどな……他のやつは知らねぇ」
「やっぱり先生は知ってた!!ありがとうございます!!調べてもわからなかったので、嬉しいです!!」
本当に嬉しそうに笑う。
「何がそんなに良かったわけ?」
「やっぱり曲ですね。あの切ないメロディがすごく好きです。クリスさんの見た目も素敵でしたけど。紫色の眸って珍しいし、照明で綺麗や金髪も眸もすごく輝いてました」
「…………」
返す言葉を失ってしまった。1度見ただけの姿を追い求めて縋り付くように聞いてくる。そんな風に追われたことはないし、求められたことも、たぶんない。ティティーの時だって要求されることはあっても求められたことはない。彼女は彼女が育てた武器を使っていただけのことだ。
「今、先生と話せて良かったです。クリスさんのお話、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、泣きそうな顔で微笑みながら聡美は、
「では、失礼します。さようなら。」
音楽室を後にした。
この時から、昂輝の興味は、中村聡美で満たされていくことになる。
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