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4.真実にしおりをはさみました!
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4.真実
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数日後。
来てしまった。
稜の家に。
普段は健人の家ばかりで過ごしていたので、稜の家に来たのは数回しかない。
意を決してインターフォンを鳴らす。だが何も反応がない。
昔、「お前が合鍵くれたから、俺の部屋のもやるよ」と言われて、稜から合鍵を貰っていた。貰ったっきり一度も使っていなかったが、今初めてそれを鍵穴にさす。
ガチャリと手応えがあり、ドアノブに手を掛けた。
「稜……?」
そっとドアを開けて、部屋を見て健人は瞠目する。
部屋はもぬけのカラだった。
がらんどうの部屋。そこにはもう何もない——。
念のため中に入り、部屋の内部を確認したが、当然稜の姿はない。
慌ててスマホを取り出して、懐かしい稜の番号を探して電話をかける。だが、いつまで経っても応答がない。
何度も何度もかけ直す。
それでも全く反応がない。
これじゃ、どうやって稜に会ったらいいんだ……。
結果はどうだっていい。
ただもう一度稜に会いたい。
会って話がしたい。
このままじゃいられない。後悔が残らないように。
一心不乱。他に術がないので再び電話をかけようと——。
「健人」
その声の方に振り返ると稜がいた。
「稜!」
その姿を見ただけで、一瞬にして心があの頃の自分に回帰する。
「なぁ、お前んち、空っぽじゃん。びっくりしたよ。いつの間に引っ越ししたんだ? 今どこに住んでる?」
「は? もう大学終わりだから引っ越したんだよ。それにしてもよく言うな。先に消えたのはお前だろ」
稜からの蔑む視線。稜の言う通り、何も言わずに姿を消したのは健人だ。
「あの時の俺の気持ちがわかったか?」
あの時——。健人が稜に黙って引っ越しを決めた日のことか。
「お前んちのドアを開けたらさ、なんにも無いんだぜ? 電話にも出ないし、メールの返事もない。お前、酷すぎるぞ。俺と別れたいならはっきり言えよ。あんな最後は嫌だった……」
稜はうつむいている。今にも涙が溢れそうな潤んだ瞳を綺麗だと思ってしまう。
「ごめん……。あの時はああするしかお前から離れるやり方がわからなかったんだ……」
稜のことをどんどん好きになっていた。それなのに稜には彼女がいる、身体は重ねても俺に心は無いんだと辛くて逃げ出したかった。
「で、何? もう俺のことなんて興味ねぇだろ。なのになんでここに来た?」
「そうじゃない。今もあの時もそうじゃないんだ」
「は? 何言ってんの?」
「俺は……お前には彼女がいるって思ってたから、俺だけ本気だなんて辛くてさ、それでお前から離れたかったんだ……」
「え。俺とお前って、付き合ってたんじゃねぇの?」
「付き合ってなんかないだろ」
「いや、だって散々やりまくってたのに?!」
「そうだよ。付き合ってくれだなんて言われたこともない……」
「でも俺、お前に好きだって言った」
「伝わらないよ。お前には美咲ちゃんがいたんだから……」
二人は学内公認の有名カップルだったくせに、どうやって健人が自分が本命だと信じられたと言うのか。
「マジで? じゃあお前は俺のこと、恋人とは思ってなかったってことか?!」
「そうだよ。セフレだと思ってた」
「セフレ?! そんなことあるわけない。俺はお前が好きなのに?!」
ずっと濁してきた。二人の関係をはっきりさせるのが怖くて触れずにいた。でも蓋を開けてみれば、腹を割って話してみたら、両想いだったのか……?
「健人、ごめん。そんな風に思ってたなんて……。だからお前は消えたのか……」
稜は切なそうに健人を見つめている。
「美咲のことをお前に黙ってた俺が悪いんだな。言わなくてもお前は俺を受け入れてくれたから、なんか話すタイミングを失ってさ。それにお前、口軽いしな。特に酒が入ると危険だ。正直にペラペラなんでも喋るしな」
「おいっ!」
黙ってはいられない。急に俺をディスりやがって。
「今さら言うが、俺と美咲は偽物の恋人だったんだ」
その話は美咲から聞いた。それを稜が健人に伝えなかったせいでこんな事態になった。
「でも俺はお前に話そうと思ってたんだよ。お前がいなくなったあの日の夜に」
随分と都合がいい話だなと猜疑的な気持ちになる。
「あの日、俺は美咲の彼氏に会ったんだ。それで美咲が大学卒業と同時に入籍することにしたから、もう擬似恋人をやめていい、今まで美咲を守ってくれてありがとうとまで言われた」
そうか。引っ越しがあと一日でも遅ければ稜と美咲の秘密を知り得たところだったのか。
「で、俺は美咲の彼氏に『俺も隠したい恋人がいたから都合が良かった』って話した」
稜が隠したい恋人というのは、
まさか。
「俺は女には全く興味が湧かない。俺が好きなのは、健人、お前だけだ」
やばいぞ。嬉しくて泣きそうだ。
「俺はお前にあんなにキスしたのに、それでも俺の気持ち、わからなかったのか……?」
「わからなかった……。どーでもいいやつって思われてるかと……」
今だってまだ信じられない。セフレじゃなかったなんて……。
「ごめんな。気づいてやれなくて……」
稜は優しく頭を撫でてきた。
「俺の前から勝手に消えたお前を責めてやろうと思ってたのに、全部俺のせいだったんだな。これじゃお前を責められない」
「責めてくれていい」
さっき空っぽの部屋を見て、稜に連絡も取れなくて、寂しかった。辛かった。稜にそんな仕打ちをしてしまったことは申し訳ないと思う。
「責めないよ」
稜はやさしく微笑んだ。
「だって、俺に本気だったからこそ辛くて逃げたんだろ? それってお前は俺のことを好きだって思っていいよな?」
今度は悪戯するときみたいな笑みに変わった。こいつは昔から俺の心の中にズカズカと侵入して、本音を言い当てるようなタイプだ。
「いーや、俺はお前がいなくなっても結構楽しく過ごせてたんだ。だからもうお前のことなんて——」
「好きだから、会いに来てくれたんだろ?」
言い終わらないうちに言葉を重ねられてしまった。
「調子に乗んなっ」
「俺ね。素直じゃない健人、大好きだ」
このクソ野郎……。
「なぁ、健人。俺達がこじれたのはお互い言葉が足りなかったせいだと思うんだ。俺はお前に美咲のこと説明が足りなかった。で、健人は俺に訊けば良かったんだ。『俺のことどう思ってるのか』って」
確かにお互い、コミュニケーション不足だったとは思う。あんなに気になっていたのだから、「美咲がいるくせに俺を抱くなんてどういうことだ」と本音を稜にぶつけたら良かったのだろう。それなのに健人は黙っていなくなることしか出来なかった。
「だから、本音を言えよ。言って欲しい。健人は俺のこと、好き?」
ニヤつきながら言うこいつは、もっともらしいことを言って結局「好き」と言わせたいだけの確信犯だ。
「俺は、健人のこと大好きだよ。好きすぎてヤバいと自分でも呆れてる。お前に逃げられて、着信拒否られた俺はどうしたと思う?」
「知るか」
確かに気になっていた。聞きたい。教えてほしい。
「俺、大学卒業してもずっとお前と一緒にいられると信じ切ってたからさ、お前が突然消えてかなりショックで、頭おかしくなったんだ」
稜はあの日を思い出したのか、また涙で目を潤わせている。
「お前のいない世界なんてどーでもいいわと思って、お前の住んでたマンションのベランダから飛び降りて死んでやろうと思った」
思わず稜の腕を掴んでしまった。なんだその短絡的な思考は。ヤバすぎるだろ。病むほど俺が好きだったなんて信じられない。
「でもベランダに出て、やっぱりやめた。俺が死んだらお前に迷惑かかると思ったから」
飛び降りるのも、やめるのも理由は全部俺か?!
「でも良かったよ、生きてて。いなくなったはずのお前がこうして俺に会いに来てくれたんだから」
「……バカ」
簡単に死のうとする奴なんてバカだ。
「だよな。でももう俺の前から突然消えるのはやめてくれ。お前に捨てられたらマジで死ぬほど辛い……」
健人は頷いた。
「俺も頑張るから。お前に捨てられないよう最高の彼氏になるよ」
何言ってんだ。ほぼ完璧だろ。
「だから、健人。俺と付き合ってくれ。俺の恋人になってくれないか? 擬似恋人はもういない。正真正銘、たったひとりだけの俺の恋人になってほしい」
稜の言葉が嬉しくて、つい稜に抱きついてしまった。
「健人。ちゃんと言お? なんで今、俺に抱きついたんだよ……」
稜も健人を抱き締め、やさしく健人の背中を撫でている。
——好きだから。
その一言が小っ恥ずかしくて出てこない。そういえば意地っ張りの健人は、一度も稜に言葉にして「好き」と言ったことはないかもしれない。
「俺は好きだよ。ずっと二人で一緒にいよう、健人」
稜は健人にキスをした。
「大学卒業したら、一緒に暮らそう」
稜はまた健人にキスをする。
「健人は?」
今度は長い長いディープキス。懐かしい。思い出した。これは健人の一番幸せな時だ。
「早く言えよ」
稜はさらに健人の口腔内をむさぼってくる。健人の髪を両手で掻き乱して、稜は必死で健人を求める獣みたいだ。
おい……。
これじゃ話す隙がない。
お前に「好き」だって言えないよ……。
稜、お前がいつもがっつくのが悪かったんじゃないのか。これ。
——完。
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