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もう…やめよう…にしおりをはさみました!
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もう…やめよう…
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あの街に戻る事が、こんなに自分にダメージを与えるなどと、逸郎は思っていなかった。
今まで殆ど夢なんか見なかったのに—見たとしても朝にはすっかり忘れていたのに—最近は、夢か現実かもわからないほど、リアルな夢を見る。
その殆どが、過去の再現で辛い思い出よりも楽しかった思い出の方が多かった。
それはまるで、忘れる事を拒むみたいに逸郎を責めた。
一見なんの繋がりもないはずだった物が、思い出すにつれ繋がり始め、捨て去ったと思っていた物の一つ一つでさえ自分を形成する部品であると知らしめている様で嫌だった。
ヒデ——
咄嗟に名乗った名前にだって理由があったのだ。
あの時、浮かんだ文字は"英"
間違いなく、英介から来ているのだろう。
もちろんそう名乗った時は、そこまで深く考えていなかった。
だが、気づいてしまえば、それだけで、既に自分は英介を汚しているのではないかと思えた。
もう、限界なのかも知れない。
あの街で、純粋にとは言わないが、真っ当に育った英介と、あの街に置き去りにされて汚れた自分が触れ合う事自体が—
英介の側に居ることで、幼い頃の純真な自分に戻れるなんて思っていない。
だけど、あの頃に少しでも近づけたら—
弱い者を護りたいなんて、ガキ臭いヒロイズムだとしても、少しでもその気持ちに近づけたら—
そんな期待はしていた。
だが、会えば会うほど、その頃のヒロイズムとは全く真逆の感情が湧き上がる。
汚してしまいたい。
同じ処まで堕とししまいたい。
たかだかキスくらいで紅潮する英介を堕とすのは簡単な事だろう。
思いがけぬ形での再会と言う後押しもある。
女を知る前に散々好くしてやれば、もう戻れない処まで引きずり込む自信もあった。
そして、そうしてしまいそうな自分もいる。
だが、そうしてどうなる。
今の逸郎が、なんとか抑制しているのは、細い細い理性の綱だった。
英介を汚す事は、自分が唯一持っている温かな思い出を汚す事と同義である。
誰の為でもない。
自分の為に、その綱だけは切ってはいけない。
もうその一本で綱渡り状態なのだから、切ってしまえば、完全に落ちる。
深い深い処まで——
——もう…やめよう…
そう思い、スマホに手をかけた時、タイミング良くメッセージ受信の通知が来た。
通知画面の時点で、相手が誰だかはわかる。
英介
その文字だけで、決心が揺らぐのが綱渡りの怖いところだ。
そして、煽っているのかと思うくらい、英介は馬鹿で鈍感なのだ。
メッセージを確認して、逸郎は後悔した。
"イッちゃん!助けて>_<"
また、綱を束ねる糸が一本切れる。
気持ちが大きく揺らぐ。
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