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敗北 -2-にしおりをはさみました!
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敗北 -2-
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櫻井の予感は的中していた。
彼が木田に背を向けたのとほぼ同時くらいに、木田は躊躇いがちに立ち上がっていた。
しかし、足早に何処へやらと向かってしまう櫻井の背中に、それ以上の行動には出られず、周囲の注目を集めながらストンとまた同じ位置に座った。
「何やってんだ、お前」
プラスチック製の白い椅子に腰掛け、前島が話しかけた。
「……おい、櫻井さん、朝どうだった?」
神妙な面持ちで、木田は前島の方を向いた。木田が俄に深刻な空気を醸し出したことについて、前島はいつもの情緒不安定程度に判断した。
「朝?別に、今のとおりだよ」
前島の答えに木田は頷きながらも、目はキョロキョロと泳いでいる。
「どうしたの、悠」
声をかけたのは室井であったが、木田の表情にいつもとは違う不穏さを覚えたのは、前島も同じであった。
「なんか、あいつに変な……なんつーの。……死相?」
「しそう?」
その言葉をどうにか『死相』と推理した室井も、初めそのままの意味に受け取らなかった。
木田はとにかく言葉が下手だ、一緒に暮らし会話をする時も、その言葉で何を伝えたかったのか、時間をかけて汲み取らなければならないことは幾度もある。
今回も何か言い表そうとして丁度いい言葉が思い当たらず、行き過ぎた表現になってしまったのかと思っていた。
室井が態度を改めたのは、こうしたときに真っ先に彼の言葉にツッコミを入れる前島が、真面目な顔をして木田の方を向いていることに気付いたためだ。
「それ、マジで言ってんのか」
前島は木田の言葉を、言葉足らずとも、天然ボケとも受け取っていなかった。
室井はこの場の空気を意識するとともに、自分と同様に状況を理解しきれていない、マネージャーの玉谷に目配せした。
玉谷は室井と目を合わせて、小さく首を傾げてから、木田と前島が顔を向き合わせている方に目を向けた。室井も、2人の会話を見守る体勢に入った。
「いや……一瞬だし、そんなわかんねぇけど。最近あいつ変だろ、なんか疲れてたり、休んでたり」
「まぁ、休んだ時は俺も心配したよ。でも……なんで今そうなんだよ」
「だからわかんねーって。……ただ、なんか空気が、あの時みてーなんだよ」
2人のやりとりは具体的でなく、しかし話に割って入って立ち入れる雰囲気でも無かった。自分がいない方が話しやすいだろうかと考えだしたとき、木田の目がふっとこちらに向いた。
「……ごめん、バカな話だった」
こちらの表情が訝しげになっていただろうか、木田はしおらしくなって話題を切ろうとした。
「俺はバカな話と思って聞いていないよ、2人が何の話をしているのか分からなかっただけ」
室井が思いを率直に伝えると、木田と前島はまた顔を見合わせた。
「……室井さんなら、話してもいいんじゃねえの?」
前島の提案に、木田が「でも、あいつの話だし、勝手に……」とどもり出す。
「いいんだ、俺も聞いちゃいけない話なら、無理には聞かないよ。ただ、俺も櫻井さんが心配になっただけなんだ」
「ん……」
閉じた口を歪めながら、木田は前島と室井を交互に見た。
「……言いたいなら言やいいだろ!あいつだって最近じゃ俺らの間ではネタにして話してっし、そんなに怒りゃしねえよ……多分」
前島の言葉の後で、玉谷が「……俺は席を外してた方がいいか?」と立ち上がった。
「え、と……じゃあ、悪いっすけど」
木田の頷きに、玉谷は鼻からフーと息を吐き出してから、トイレの方に向かった。
「……あいつと最初に会った時、なんだけどさ」
3人になってから、木田が室井の方を向いて話し始めた。
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